これって腎臓の病気? 尿検査から分かる危険なサインを見逃すな
第1回 尿は体の変化を明るみに出す“名探偵”
田中美香=医療ジャーナリスト
毎日私たちの体から排出されているものの、特に気に留めることのない「尿」。だが、尿は腎臓という生命維持に欠かせない臓器の不調を映し出す、重要な情報源だ。本特集では、腎臓の病気に詳しい横浜市立市民病院腎臓内科長の岩崎滋樹医師への取材を基に、尿が発する危険なサインや、血液検査から分かる腎機能の異常について掘り下げながら、健康長寿を支える「腎臓の健康」を守る手立てを紹介していく。
健康長寿の生命線 「腎臓」を守る 特集の内容
- 第1回これって腎臓の病気? 尿検査から分かる危険なサインを見逃すな←今回
- 第2回腎臓はある日突然力尽きる 異常値が出たら放置は禁物
- 第3回腎臓を長持ちさせる「たんぱく質」「水分」「塩分」のとり方
「腎臓」は健康長寿の生命線、だが異変に気づきにくい
誰もが共通に願う健康長寿――。その実現には、心臓、肺、肝臓、胃、腸といったさまざまな臓器の健康(機能)を維持することが欠かせない。今回の特集のテーマである「腎臓」も極めて重要な「健康寿命の生命線の1つ」だ。
私たちが普段何気なく話している言葉には、体の一部を指すものが多いが、その1つに「肝腎(肝心)かなめ」という表現がある。(すべての臓器がそれぞれ大事な役割を果たしていることは言うまでもないが)腎臓は、肝臓と同じく、とりわけ重要な位置づけにあるということだろう。
だが、日常生活で腎臓の存在を意識することはほとんどない。健康診断の結果を見る際も、血圧、血糖、脂質、肝機能などに真っ先に目がいくし、自分の数値を把握している人も多いだろう。しかし、腎機能の値となると、即答できない人が多いのではないだろうか。そもそもどんな検査項目があるのか知らない人も少なくないだろう。

腎臓の病気のスペシャリストである横浜市立市民病院腎臓内科長の岩崎滋樹医師によると、腎臓は生命を維持する上で欠かせない臓器だが、よほど悪くならない限り悲鳴を上げない臓器でもあるという。腎機能が低下しても、当初は腎臓の代償機能が強く働き、自覚症状が出にくい一方で、症状が明らかになったころには腎臓の機能はすでに過半で失われていることが多い。体の異変を感じて受診した時点で、透析が近い状態と判断されて、専門医へ紹介されてくることが少なからずあるという。
残念なことに、一度失われた腎機能は基本的には元に戻らない。腎臓の機能が失われ、透析治療を受けるようになると、日々の生活は大幅に制限されることになる。その医療費負担が国レベルで大きな課題になっていることも周知の通りだ。そうなる前に、腎臓の健康を保たなければならない。
腎機能が半分に落ちると、死亡リスクは4倍にも上昇する
そもそも腎臓は、縁の下の力持ちのような臓器だ。体の中の老廃物を排出したり、体内の水分量を一定に保ったり、電解質バランスを保ったりと、地味だが生命維持に欠かせないさまざまな機能を担っている(図2)。
腎臓の中で血液のろ過を行う糸球体は「毛細血管の塊」なので、高血圧や糖尿病などの持病があって動脈硬化が進んでいる人は、腎臓の機能も落ちやすい。そして、腎臓の機能が落ちると、動脈硬化を背景に起こってくる脳卒中や心筋梗塞などを発症しやすくなることも知られている。こうした合併症による死亡も含めると、腎機能が半分以下に落ちた人は、腎臓がほぼ正常の人と比べて4倍も死亡率が高いという報告もある(図3)。

※GFRについては第2回で詳しく解説します
日本では、高齢化や、糖尿病、高血圧といった生活習慣病の増加を背景に、腎臓の病気を患う人は増える一方だ。長い時間をかけて腎機能が落ちていく病気の総称である「慢性腎臓病」は、推定患者数が1330万人とされ、日本人の1割以上を占めると言われている。
「健康長寿を目指すなら、腎臓の機能が大きく損なわれないうちから、腎臓を大切にしなければなりません。そのためにまず大切なのが、腎機能に異常が生じたとき最初に変化が現れる『尿』の検査を、毎年きちんと受けることです」(岩崎医師)
気づかぬうちに病気が進行する腎臓の性質や、腎臓を守る具体的な対策を解説する本特集。第1回となる今回は、身近なようで実は知らないことも多い「尿」の話から、岩崎医師に詳しく聞いていこう。