中高年のひきこもり 「お金の話」極めて重要、そして親亡き後は…
「お小遣いはあげたほうがいい」理由
及川夕子=ライター
ひきこもり対応における親の役目は、本人が安心してひきこもれる関係づくり。子が親に弱音を吐けるような関係性になってこそ、ひきこもっている子の傷ついた心が癒やされ、凍った心が溶けていく。そして、次のステップである受診や支援機関へつながる段階へと進むことができる。具体的な対応の一つは対話を続けること、もう一つは「親亡き後のお金の話をきちんとしておくこと」と、精神科医の斎藤環さんはアドバイスする。最終回は、なぜお金の話が重要なのか、またライフプランの立て方、きょうだいの関わり方について、伺っていく。
人間心理はお金があるほど働きたい気持ちが高まる
斎藤さんは、「親亡き後のお金の話をきちんとしておくこと」が重要だとおっしゃっていますが、ひきこもりの対応に「お金の話」が重要なのはなぜでしょう。一人前として扱うということでしょうか。

斎藤さん よく「お金があると分かると、働く意欲をなくすのではないか」と心配する親御さんがいますが、私は逆だと思います。意外かもしれませんが、「余裕があると分かったので働く気になりました」と話す当事者も少なくありません。
お金は欲望の種なので、お金がない生活を続けていると、欲望そのものが消えてしまいます。小遣いをあげないということは、「社会参加をしなくていい」というメッセージになるのです。コロナ禍で消費を控えている人も多いでしょう。ですが、ひきこもっている人には、消費を促すことが重要です。小遣いをきちんとあげてほしいということです。とはいえ、無制限にあげるのもよくありません。
私が主催する家族会では月当たり平均2万3000円くらいが目安になっているようです。ここには通信費、交通費、服飾代、本代が含まれています。「いらない」と本人が言っても小遣いは、できれば現金であげるようにします。働いていないから悪いと思って受け取らない当事者もいますが、部屋に置きっ放しになっていても毎月渡します。本人名義の通帳を作り、振込みをする方法でも構いません。用途はなんでもいい、1日で使い切ってもいい、無駄に使っていいお金を与えることが重要です。
ひきこもりに限らず、人は、100%義務感で働くのは無理なのです。自分自身がそうではありませんか? お金に困るほど、意欲や動機が弱まってしまう。むしろお金に困っていない方が、ゆっくり考える時間が生まれ、より良いキャリアを築きたいという、就労動機が高まるという仮説があります。親がベーシックインカムを保証してあげると、やりたいことをしたい、経験してみたいという欲求が湧いてくる。義務感で働き始めても長くは続きませんが、興味や好奇心で働ける仕事は、続くのです。