ひきこもり脱出への道 必要なのは「対話」であって「説得」ではない
「安心してひきこもれる関係づくり」が実は大切
及川夕子=ライター
「10年、20年と長い間ひきこもり生活を続けている」「自身の病気や親の介護を機にひきこもりになった」など、様々なケースがある中高年のひきこもり。前回記事では、ひきこもりは診断名ではないが、二次的な精神障害が生じるケースもあることや、治療・解決には第三者の介入が必要なことを紹介した。第3回では、中高年のひきこもり支援のあるべき姿と、親が取るべき対応について伺う。
ひきこもりは苦しい コロナ禍でようやく進んだ理解
2020年は新型コロナウイルスの影響で、多くの人が自粛生活を余儀なくされました。この間、ひきこもり当事者にも何らかの影響はあったのでしょうか。

斎藤さん 世界中が自粛生活に入り、ひきこもり当事者は楽になったかというと、そうでもなく、彼らの苦しい状況は相変わらずだったと感じています。自粛期間中は路上に人がいなかったので、世間体を気にせず外出しやすくなった人はいました。しかし、四六時中親がいるような状態では、家族間の摩擦も増え、以前より強いストレスを感じていたはずです。
私が一つだけよかったと思えるのは、今回、ひきこもり生活を大勢の人が体験したことです。実際のひきこもり対応でも、親御さんがひきこもっている子に対して、共感的に理解する・接することが非常に重要です。
「コロナうつ」という言葉がはやったように、行動が制限され、誰とも会えない状況は誰にとっても苦しいものです。あなたなら、何年もの間、そのような孤立状態に置かれることに耐えられるでしょうか? 多くの人が、当事者の置かれている状況をリアルに想像できたり、共感しやすくなったことは、唯一よかったことだと思います。
真っ先に取り組みたいのは、安心してひきこもれる関係づくり
いわゆる8050問題ですが、高齢の親御さんにとってはすぐ目の前にある危機です。斎藤さんの経験から、家族が取り組むべき対処法を教えてください。
斎藤さん すぐに就労させよう、自立を促そうと思って、本人に受診や職探しを無理強いしてもうまくいきません。厚生労働省のガイドラインでは、ひきこもり問題への段階的対応が推奨されています。
ひきこもっている人の多くは、世間と関わることや治療を拒む人も多いため、最初の段階では、当事者に一番近い親が、精神科医や専門窓口に相談することになります。
ひきこもりそのものは病気ではありませんが、精神科も相談できる場所の一つです。ただ医療機関の場合、本人抜きで家族だけの相談を受け付けていないところもあるので、あらかじめ確認が必要ですし、まずは各都道府県の「ひきこもり地域支援センター」や「精神保健福祉センター」の窓口で相談するとよいでしょう。
親御さんは家族会などに参加することで、社会との接点を増やしていきます。同時に、適切な対応術を身に付け、本人と関わるようにします。