中高年を襲う「目の3大病」、最適な治療と手術のタイミングは?
第2回 白内障は眼内レンズを入れる手術、緑内障は眼圧を下げる治療が基本
梅方久仁子=ライター
年齢とともに増える目の病気である緑内障や加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)では、一度落ちてしまった視力や見え方の異常を劇的に回復させることは難しい。早期に発見して、さまざまな治療を行うことによって、残っている視力や視野を維持し続けることが大切だ。一方、多くの高齢者がかかる可能性のある白内障は、手術で見え方はほぼ回復するが、手術のタイミングと眼内レンズの選択が問題となる。
薬も手術も、治療法は年々進歩してきている。それぞれの病気について、現在はどのような治療法が行われているのかを紹介しよう。

40代以降に多く、中高年の失明の原因ともなる緑内障、加齢黄斑変性。そして、年齢を重ねれば多くの人がかかる白内障。特集第1回では、加齢とともに忍び寄る代表的な目の病気として、これら3つの疾患の成り立ちや、発見が遅れがちな理由を紹介してきた。第2回では、これら3大病の治療法の最新事情を、引き続き井上眼科病院(東京都千代田区)院長の井上賢治さんに聞いていく。
白内障は、手術の時期と眼内レンズ選びがポイント
まずは加齢によってほとんどの人が発症する白内障から説明しよう。白内障の治療は、白く濁ってしまった水晶体を取り除いて、人工の眼内レンズに置き換える手術が基本だ。点眼薬が処方されることはあるが、進行を遅らせる効果はあまり期待できない。
白内障の手術は、現在はほとんどが「超音波乳化吸引術」という術式で実施される。これは、角膜にごく小さな穴を開け、超音波を使って水晶体を細かく砕いて吸い出した後、人工の眼内レンズを挿入する方法だ。手術時間は20分程度で、局所麻酔で実施でき、傷口が小さいので体への負担は非常に少ない。状況によっては、日帰りでの手術も可能だ。
「白内障の手術は全身への負担が少ないので、健康面に大きな問題がなければ、例えば90歳の人でも受けられます。もう高齢だから、などと言ってあきらめる必要はありません」(井上さん)

問題は、手術の時期と挿入する眼内レンズの選択だ。
白内障は、手術の時期が多少遅れても、失明するということは、ほとんどない。ただ進行すると、目がかすんだり、物が見えにくくなるなど日常生活が不便な上に、水晶体が硬くなって砕くのに時間がかかるなど、手術が難しくなることがある。「一応見えているうちは手術せずにがんばろう」などと先延ばしすることは考えずに、医師と相談した上で適切な時期に手術を決断するとよいだろう。
単焦点眼内レンズは水晶体のように目の筋肉(毛様体筋)の力で厚みを変えられないので手術後はピントの調節力はなくなる。眼鏡なしでピントが合う距離は1カ所になるが、どこにピントを合わせるかは比較的自由に設定できるので、ライフスタイルに合わせて選択しよう。
例えば、デスクワーク中心の人は30cmにピントを合わせ、遠くを見るときは眼鏡で矯正することになる。眼鏡なしでスポーツなどを楽しみたい人は、遠方にピントを合わせ、手元を見るときは老眼鏡を使うとよいだろう。もっとも、一般の老眼と同じで、累進レンズ(*1)の眼鏡を使えば、そう不便はない。また、必要に応じて眼内レンズで乱視を矯正することもできる。
ただし、レーシック手術を受けたことがある人は、角膜を人工的に削っているので、眼内レンズの度数を決めることが難しい。一般的なデータや計算を用いると術後の屈折度数が合わせづらいことがあるが、レーシック手術を受けたときのデータがあれば計算は可能だ。