歩きたいのに歩けない! つらい「足の痛み」はなぜ起こる?
第1回 姿勢の崩れがもたらす「脊柱管狭窄症」と「足底筋膜炎」
田中美香=医療ジャーナリスト
新型コロナウイルスが流行して以降、ステイホームやテレワークが広がり、体を動かす機会が激減した。運動不足が続けば筋肉が落ち、足腰が弱っていくが、悪影響はそれだけにはとどまらない。家の中でじっと過ごしていることが、思わぬ「足の痛み」の原因となり、いざ運動をしようと思っても痛くてできない…という事態に陥ることがある。本特集では、コロナ禍に起こりがちな「足の痛み」の解決法や予防法を、清水整形外科クリニック院長の清水伸一さんに聞いていく。
ステイホームで癖になった悪い姿勢が「足の痛み」を招く

新型コロナウイルスの流行拡大防止のため、外出が制限されて以来、多くの人に共通する悩みといえば「運動不足」ではないだろうか。7月は長い梅雨、8月は猛暑で、2020年の夏は長い時間を自宅で過ごさざるを得ない状況となった。
そうしてやってきたスポーツの秋。涼しくなった今こそ、密を避けつつ、なまった体を動かそうと意気込む人もいることだろう。だが、久々に本格的な運動を始めたくても、足が痛んで思うように体を動かせないことがある。歩くことは人間の活動の基本であるだけに、「足が痛い」「痛くて思うように歩けない」という現象は、その人にとって大きな不安とストレスの原因になる。足が痛いために歩かなくなり、家にこもりがちになってますます筋肉が落ち、歩けなくなる…。足の痛みは、そんな悪循環を容易に引き起こすため、痛みの正体を知り、適切に対処していくことは大切だ。
中高年特有の足腰の悩みに長年向き合ってきた、清水整形外科クリニック(さいたま市)院長の清水伸一さんによると、足の痛みは、足を構成する【骨・関節、筋肉、神経、血管】のうち、いずれかの異常によって生じるという(図1)。
加齢現象で骨や関節に歪み・ひずみが生じれば、股関節や膝などが変形して変形性膝関節症や変形性股関節症が起こるし、腰から足へと伸びる神経が障害されたり、筋肉に炎症が起きたりして足が痛むこともある。さらに、生活習慣の乱れから足に動脈硬化が発生する、閉塞性動脈硬化症のような血管の病気も、足の痛みの原因となる。血中で過剰になった尿酸が結晶化し、関節の中にたまって起こる痛風も有名だ。

「これらの中でも、ステイホームの影響で増える可能性が高いのが、背骨、特に腰骨周辺の神経が圧迫されて起こる、脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)などによる足の痛みです」(清水さん)。神経が圧迫される大きな原因は、姿勢の崩れだ。
「家の中にこもってパソコンやスマートフォンを使う時間が格段に増えたことに伴い、目立っているのが、前かがみなどの悪い姿勢を長時間続けている人です。姿勢が崩れて起こる痛みというと、腰痛や肩こりをイメージする人が多いかもしれませんが、姿勢の影響は全身に及びます。腰の周辺から枝分かれした神経は足先まで続いていますから、姿勢が悪化すると、足にも痛みを感じるのです」(清水さん)
さらに、「運動不足の人が急に運動を始めたとき、筋肉が炎症を起こして痛むこともあります」と清水さんは話す。その代表例が、歩くと足の裏やかかとに痛みを感じる足底筋膜炎(足底腱膜炎)だ。この病気にも、姿勢の崩れが深く関係している。
積み重なった運動不足を解消したくても、足が痛めばそれどころではない。かといって、安静にすれば筋肉が落ち、ますます運動から遠ざかってしまう…。そんなジレンマを回避するため、本特集では、コロナ禍でリスクが高まっている「脊柱管狭窄症」と「足底筋膜炎」にフォーカスし、その原因と予防策を探っていこう。
この記事の概要
