まさか自分? うつの私、リワークプログラムに出合う
第1回 初めて知った復職支援のプログラム
ふくいひろえ=文
休職して、毎日「死にたい」と思うように……
その後は、自宅で服薬と療養の日々に。やはり、病気のことや、今後のことを考えれば考えるほど、うつは悪化していきました。本格的にうつの日々がやって来たのです。
それこそ、毎日のように希死念慮を抱えるようになりました。毎日、死にたかった。
うつの患者の間では、最悪の状態といわれている「落ちる」体験をしたのも、実は休職してからでした。
「落ちる」というのは、まるで頭の中が泥水で満たされたかのような、これ以上ないくらいの自己不全感に陥ることをいいます。話すことも、顔を上げていることも、何かを考えることもできない。出口のない、えたいの知れない閉塞感。私の場合は泣きながら、うずくまるだけ。
「こんなにつらいなら、いっそ……」と、夜中に衝動的に自宅マンションのベランダに出たこともあります(自室は7階)。
「とんでもないことを考えてしまった」と自分を責め、怖くて不安で、パニックを起こし、119番に電話をかけて助けを求めようとしたこともありました。
その後、病院の検査で甲状腺ホルモンが不足する「橋本病」であることが判明し(40代の女性に多いと後から知りました)、その不足を補う薬を服用し始めてから症状が少しずつ改善。自宅での療養と服薬によって、状態は薄紙をはぐように安定してきて、語学の勉強を始められるまでになりました。
毎日、単語を一つでも覚えれば、前日は分からなかった文章の意味が、今日は分かるようになります。「できないことばかり」ではなく、少しでも「できること」を積み重ねることが、安心感につながったのを覚えています。
そんな日々が続いて、ようやく当時の主治医から「そろそろ復職の準備を始めてもいいでしょう」と言われ、私は、勤務先の会社の人事部に連絡を取ることにしました。
人事部の勧めで初めて知った「リワークプログラム」
長期間、会社を休んでしまい、休職前と同じように働けるのか、上司や同僚に受け入れてもらえるのか。うつだったということで変な目で見られないか……。
仕事に戻るのは不安でもあり、正直、怖いけれど、そうかといってこのまま会社を休み続けるわけにもいかない。この先の人生を生きていくために、働かなくては。とにかく勤務先の人事部に相談してみよう、と重い腰を上げたのでした。
人事部に連絡すると、「一度、会って話しましょう」と面談を行うことになりました。
「ふくいさん、お久しぶりです。顔色も良いですし、だいぶ回復されたようでよかったですね。でも、うつになった方は、復職後に、また体調を崩されることが多いんですよ」
「え、そうなんですか? 私はもう大丈夫だと思いますが……」
「長い間会社を休んでいた状態から、いきなり復職して以前と同じように働くのは、健康な人でもつらいものです。連休明けや、年末年始の休み明けも、いつものペースに慣れるまで疲れやすいでしょう。まして、ご病気だったんですから、なおさらだと思いますよ。ところで、ふくいさん、『リワークプログラム』というものがあるのをご存じですか? うつで休職している人向けに、復職を支援するプログラムです。これを受けることをお勧めします。会社としても、このプログラムを受けてから復職していただきたいと考えています」
予期せぬ話に、「主治医のOKももらい、こちらがもう大丈夫、復職したいと言っているのに、なぜ、そんなプログラムを受けなければいけないんだろう。それにいったい、どういうもの? そのプログラム?」と、すぐには受け入れられない気持ちでした。
そして、私は、当時の主治医に相談することにしました。
主治医は、このプログラムのことを知っていたようで、「当病院ではリワークプログラムを行っていないので、会社が受けるようにと言うなら、プログラムがある病院を受診するしかありません」とのこと。
こうして、私はインターネットで検索して見つけた、東京・港区虎ノ門にある精神科クリニック、「メディカルケア虎ノ門」を訪ねることにしました。

初診では、まず主治医となる五十嵐所長(当時は院長)から体調について尋ねられ、プログラムの概要の説明を受けました。
そして、驚いたのは、私が「そのプログラムを終えるまでに、どのくらいの期間がかかるんですか?」と尋ねたときでした。
「人により、症状によって差はありますが、最低、半年は必要です」
「ええっ、最低でも半年!? そ、そんなに長くかかるんですか!」。驚く私に、所長はこう答えます。
「うつは再発しやすい病気です。今、ここでしっかり向き合って、きちんと治して復職の準備をすることが、復職しても再発せずに済むことにつながります」
うつは再発しやすい――。初耳でした。私は、漠とした不安が、胸にじんわり広がるのを感じました。
そして私は、これをきっかけに「このプログラムのことを知りたい、受けてみたい」という気持ちを強く持つことになったのです。