50歳を過ぎたら食事のポイントは「メタボ予防」より「筋肉」!
第1回 長寿を目指す食卓、1つ目のカギはたんぱく質
村山真由美=ライター
日本人が健康のためにとるべきエネルギーや栄養素の基準を示す「日本人の食事摂取基準」が、今年5年ぶりに改定された。最新の2020年版が示す、「健康長寿を目指す日本人の食卓」に欠けているものとは、どのようなものなのだろうか? 本特集では、同基準の改定の狙いと、今私たちが見直すべき食事のポイントを、同基準の策定検討会ワーキンググループメンバーを務めた女子栄養大学栄養生理学教授の上西一弘さんに詳しく聞いていく。
今、私たちに必要な食事のあり方が集約された「食事摂取基準」
「日本人の食事摂取基準」(以下、食事摂取基準)は、日本人が健康のためにとるべきエネルギーや栄養素の基準を示したもので、国内外のさまざまな最新知見に基づき、厚生労働省が5年ごとに改定している。栄養士や管理栄養士は、この基準をベースにして、国民の健康増進のための栄養指導やメニュー作りなどを行う。つまり、今、私たちに必要な最新の食事のあり方が、この指針に集約されているというわけだ。
食事摂取基準では、子どもから大人まで、それぞれの年代の特性に合わせて、必要な栄養素の摂取目標量や摂取上の注意点などを示している。このうち、成人において最大の目標に掲げているのは「健康寿命の延伸」だ。この目標を実現するために、前回、2015年版の食事摂取基準では「生活習慣病の発症予防と重症化予防」を大きなテーマに据えていた。
「今回の2020年版の大きな特徴は、このテーマに加えて『高齢者の低栄養・フレイル予防』と『若いうちからの生活習慣病予防』という視点が加わったことです」。2005年版から食事摂取基準の策定に携わってきた、女子栄養大学栄養生理学教授の上西一弘さんはそう話す。
最新の食事摂取基準が強調したのは「フレイル予防」
「低栄養」がどのようなものかはある程度想像がつくとして、「フレイル」って何? と思った人もいるだろう。
「フレイル」とはFrailtyの日本語訳で、虚弱や脆弱(ぜいじゃく)という意味。加齢とともに心身の活力や社会とのつながりが弱くなり、要介護のリスクが高くなった状態をいう。
もう少し詳しく解説すると、フレイルには「身体的フレイル」「精神・心理的フレイル」「社会的フレイル」という3つの側面がある。身体的フレイルとは、体重や筋肉の減少がもたらす体の虚弱状態のことで、精神・心理的フレイルとは、認知機能の低下など、精神・心理的な活力が低下した状態、社会的フレイルとは、社会とのつながりが減った状態を指す。フレイルは、この3つの側面が複雑に絡み合って心身の虚弱が進んだ状態を意味する(図1)。

なお、フレイルと似たような意味合いを持つ言葉に「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」と「サルコペニア」がある。ロコモティブシンドロームは「運動器(骨、関節、神経、筋肉など)に障害が起こり、立つ・歩くなどの機能が低下した状態」、サルコペニアは「加齢や栄養障害により、筋肉量と筋力が低下した状態」のことで、いずれも「身体的フレイル」とかかわりが大きい。
「日本人の平均寿命は大きく延びましたが、心身ともに自立した生活を送れる『健康寿命』との間には男性で約9年、女性では約13年の差があるのが現実です(*1)。健康寿命をできるだけ延ばし、平均寿命との差をなくしていこうというのが近年のわが国の大きな政策になっており、フレイルという言葉を使った啓発活動が進められています。こうした社会の大きな流れに合わせて、『食事摂取基準2020年版』でも、食事の面から低栄養やフレイルの予防に取り組むことになりました」(上西さん)
フレイルは、健康と要介護の中間の段階で、そのまま放っておくと要介護に陥る危険がある。今回の食事摂取基準は、この状態にある高齢者を、食事の改善により、最後まで自立して生きられる健康な高齢者に戻す、あるいは、フレイルに陥る前の段階で予防する、という視点で改定されたというわけだ(*2)。
*2 フレイル予防には、食事だけでなく運動や社会参加も重要だが、今回は、食事面からの予防策について考えていく。