免疫をうまく働かせ、病原体を撃退しやすくする方法
第3回 免疫細胞が全身をパトロールできるよう、血液とリンパの流れを良くする
田中美香=医学ジャーナリスト
新型コロナウイルス流行下で、多くの人が高めたいと願う「免疫」の力を解説する本特集。最終回は、免疫をうまく機能させるための方法を紹介する。その方法とは、免疫に関わる細胞が全身をパトロールしやすいよう、血液やリンパの流れをスムーズにすること。自らそれを実践して「病気知らず」と語る、大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授の宮坂昌之さんにポイントを教えていただこう。
科学的なエビデンスのある免疫増強法は「ワクチン接種」
免疫は、ウイルスや細菌などの病原体から体を守る大切なシステム。病原体が体に入ってくると、誰もが生まれながらに持つ「自然免疫」が働き、たとえそこを乗り越えた病原体がいても、今度はそれを「獲得免疫」が迎え撃つ。獲得免疫は病原体との戦いを経て鍛えられ、その病原体のことを記憶して次の侵入に備えるという高度な機能を持っている(第1回参照)。
ウイルスが体に入ると、獲得免疫に関わる細胞(リンパ球)は「抗体」を作り、病原体を撃退しようとする。だが、抗体の中には、病原体を殺そうとする「善玉抗体」もあれば、感染を進めて病気を悪化させる「悪玉抗体」もある。そのため、抗体が多ければ多いほどいいとは限らない(第2回参照)。
では、感染症にかかりにくくするためには何が必要か。大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授の宮坂昌之さんによると、科学的エビデンスのある免疫増強法としてお勧めできるのは、肺炎球菌による肺炎や、インフルエンザなど、ワクチンがある感染症についてはワクチンを接種することだという。認可されているワクチンは段階的な臨床試験を経て効果が検証されているため、接種によって悪玉抗体が増える心配はない。
しかし、ワクチンを接種すると副反応が起こることもあると聞く。インフルエンザの場合、免疫が続くのはわずか4カ月程度で、しかも感染を避けられないことも多い。免疫学の第一人者がワクチンを勧める理由とは何だろうか。
「確かに、インフルエンザのワクチンを接種すると、まれに重篤な副反応が起こることがあります。しかし、そのリスクは、ワクチンを接種しなかった人が感染して重大な合併症を起こすのに比べたら許容できる範囲です。それに、万一感染しても軽症で済むなら、特に高齢者や持病がある人などハイリスクの人にとっては接種する意義が大きいと思います」(宮坂さん)
ワクチンを接種する機会の多い子どもは、自然免疫と獲得免疫がそのたびに刺激され、訓練されている。子どもが新型コロナに感染しにくく重症化しにくいのは、そのことが一因ではないかと宮坂さんは話す(第2回参照)。しかし、年をとってワクチン接種の機会が減ると、免疫が訓練される機会も減ってしまう。「高齢者も、毎年秋にインフルエンザ、そして肺炎球菌のワクチンを所定の時期にきちんと受けておけば、その病気の発症や重症化を防ぐだけでなく、免疫を訓練するという恩恵があるかもしれません」(宮坂さん)
だが、新型コロナに関しては、ワクチンも治療薬もまだ存在しない。そんなウイルスに対し、体の防衛能力を高めるためにできることとして、宮坂さんは「血管系やリンパ系の流れを良くすることが大切です」と話す(下図)。

「リンパ球は免疫に関わる細胞で、白血球の1つです。リンパ球は、血管とリンパ管を介して、病原体が侵入するリンパ組織(リンパ節や扁桃など)に出たり入ったりを繰り返し、全身をパトロールしています。ということは、リンパ球が病原体と出会う確率が高くなれば、病原体を撃退しやすくなります。そこで、リンパ球が全身を循環しやすいよう、血液やリンパの流れを良くすればいいわけです」(宮坂さん)
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