「新型コロナは抗体さえあれば大丈夫」ではない理由
第2回 作られる抗体の種類によっては病気が悪化することも
田中美香=医学ジャーナリスト
新型コロナウイルス流行が長期化する今、世界中で待たれているのがワクチンの開発だ。誰もが「抗体がないと感染しやすくなるからワクチンを接種したい」と思うわけだが、抗体が多いほどいいとは限らないという事実はあまり知られていないのではないだろうか。今回は、そんな抗体の意外な正体について、大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授の宮坂昌之さんに教えていただこう。
私たちは、病原体を排除する仕組みを生まれながらにして持っている(自然免疫)。さらに、体の中で出会った病原体のことを記憶し、病原体が再び侵入したときに向けて準備しておく、精巧な仕組み(獲得免疫)も備わっている(第1回参照)。そうやって病気にかからないよう働くシステムが「免疫」だ。
しかし、私たちは免疫について知らないことも多い。その一例が、「抗体」に関する理解だ。
抗体とは、ウイルスなどの病原体がわれわれの体に侵入したとき、それを撃退するためにリンパ球(Bリンパ球)が作る武器のようなもの。「抗体は多ければ多いほど、そのウイルスに感染しにくくなる」というのが多くの人の理解ではないだろうか。
ところが、大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授の宮坂昌之さんによると、抗体は免疫機能における唯一無二の主役ではないという。
「抗体の種類によってはかえって悪い方向に働くこともあるので、感染を防御するために、単に『抗体を増やせばいい』ということはありません。新型コロナウイルスに感染して回復した人のうち、3分の1は抗体をごく少量しか持っていなかったとか、抗体をまったく持たない人でも治ったという報告もあります」(宮坂さん)
しかし、それなら抗体がなくても構わないかというと、そうでもない。今回は、抗体にどんな役割があるのか詳しく見ていこう。
病原体に感染して作られる抗体の多くは、病原体を殺す「善玉抗体」
「抗体」と聞くと、何か1つのものを想像するかもしれないが、実は1つだけとは限らない。「抗体は3種類あります」と宮坂さんは話す。
「ウイルスを攻撃し、殺してくれる抗体しか存在しないと思われがちですが、そうではありません。抗体の中には、別の働きをするものもあります」(宮坂さん)
それが、善玉抗体・役なし抗体・悪玉抗体の3つだ(下図)。
