肺を守るには新型タバコもNG ニコチン依存や受動喫煙のリスクあり
第3回 加熱式タバコも電子タバコも肺に悪影響の可能性
田中美香=医学ジャーナリスト
最近、喫煙スペースなどで加熱式タバコや電子タバコを吸う人を見かけるようになった。次世代型の新しいタバコと呼ばれるだけあって見た目がスマートで、煙が少ないことから、本人にも周りの人にも有害性が低いイメージを持つ人が多いだろう。だが、実際には本人の健康を損なうばかりか、受動喫煙の可能性も否めないとの指摘もある。肺の健康を守るために知っておくべき、加熱式タバコ・電子タバコの害について、東京女子医科大学八千代医療センター呼吸器内科教授・桂秀樹さんに聞いた。
新型コロナウイルス感染が世界中に拡大してから半年が過ぎた。日本は医療崩壊の危機をギリギリ回避したかに見えたが、実際には医療崩壊が起きていたとも言われている。第2波、第 3波がいつ来るのか、まだ油断できないのが現状だ。
新型コロナの第2波とインフルエンザの流行時期が重なれば、2020年の秋冬は、春以上に大変な事態が起きても不思議はない。そこで重要なのが、マスク着用、手洗い、消毒などによる感染対策だ。
もっとも、ウイルスが肺に入ったときに感染しやすいかどうか、重症化しやすいかどうかは、その人の肺の状態にもよる。タバコなどによって肺がダメージを受けていれば、感染リスクも重症化リスクも高い。その一例が、タバコ病とも呼ばれる慢性閉塞性肺疾患、通称「COPD」(シーオーピーディー)の患者だ。
COPDとは、気管支の炎症が慢性的に続く「慢性気管支炎」と、酸素と二酸化炭素を交換する肺胞が破壊される「肺気腫」という、2つの病気の総称。咳や痰、息切れから始まり、悪化すると呼吸困難で寝たきりとなって命を落とす可能性もある。
COPDは喫煙者だけでなく、禁煙して20年以上経つような人でもなりやすい(第2回参照)。そればかりか非喫煙者も、タバコから出る「副流煙」に長期にわたってさらされると、COPDになり得るというから聞き捨てならない。
ただし、COPDを招くのは、従来の紙タバコばかりではない。禁煙対策の一環として切り替える人の多い次世代型のタバコ――加熱式タバコや電子タバコにも言えるという。
新型タバコは、通常の紙タバコのように火をつけて燃焼させるのではなく、専用のタバコの葉やリキッドを加熱して、発生した蒸気を吸引する。大きく分けて、以下の2つの種類がある。このうち日本で利用者が多いのは加熱式タバコで、2018年の国民健康・栄養調査によると、習慣的に喫煙している人のうち男性では30.6%、女性では23.6%が利用している。
加熱式タバコ

- タバコの葉の加工物を高温で蒸し焼きにしてエアロゾルを吸入するタイプと、低温で霧化する有機溶剤からエアロゾルを発生させ、タバコ粉末を通して吸引するタイプがある
- ニコチン含有量の少ない製品もあるが、紙タバコと同量のものもある
電子タバコ

- グリセリンや香料などを含む溶液(リキッドという)を低温で熱し、気化したエアロゾルを吸入する
- 日本で販売される製品はニコチンを含まないため、法律による規制を受けず、たばこ税の課税対象外である
- 香料の匂いがある
「加熱式タバコ、電子タバコなどの新型タバコでも健康被害が生じるという報告があります。しかし、新型タバコにはクリーンなイメージがあり、自分や周囲の人の健康を害するという事実を知らない人が多いのではないでしょうか」(桂さん)
つまり、肺の健康を守るためには、紙タバコだけでなく新型タバコも遠ざける必要があるというわけだ。新型タバコは紙タバコと何が違い、人体にどんな害をもたらすのか具体的に見ていこう。