禁煙した人も無縁でない「隠れCOPD」 早期発見の方法は?
第2回 胸部レントゲン検査だけで、肺の病気をくまなく調べることは不可能
田中美香=医学ジャーナリスト
タバコによって肺の健康が損なわれると、新型コロナなどの感染症にかかりやすくなり、また重症化しやすくなる。そんな肺の病気の代名詞が、日本に530万人も患者がいると推計されている「慢性閉塞性肺疾患」(通称COPD)だ。うち9割以上は未診断・未治療の「隠れCOPD」であり、健康診断の胸部レントゲン検査だけで病気の有無を調べることは難しいという。では、どんな検査をどのくらいの頻度で受ければいいのか、東京女子医科大学八千代医療センター呼吸器内科教授の桂秀樹さんに指南していただこう。

肺は常に外気にさらされていて、タバコや大気汚染の影響をダイレクトに受けやすい臓器だ。第1回で解説したように、タバコを主原因とする肺の病気「慢性閉塞性肺疾患」(以下、COPD)になると、新型コロナやインフルエンザのようなウイルス、肺炎球菌などが入り込んだ場合に、重症化しやすい。
COPDは、タバコを吸う人のみならず、すでに禁煙した人にも起こり得る。それどころか、タバコを吸わない人も、タバコから立ち上る煙(副流煙)によって悪影響を受けている恐れがあり、誰にとっても人ごとではない病気だ。
前回記事で説明した通り、COPD患者の中には、まだ病気にかかっている事実に気づいていない「隠れCOPD」も存在する。その数は推計で実に500万人以上という膨大な数だ。病気の存在に気づかず、治療を受ける機会もない状態で感染症にかかると、急に悪化する「増悪(ぞうあく)」を起こして命を落とすこともあるという。
そんな事態を避けるためにどうすればいいのか。COPDかどうかは、年1回の健康診断でレントゲン検査を受ければ分かるのではないか、そう思う人もいるだろう。しかし、「レントゲンで異常はなかったから大丈夫」と考えるのは早計だ。
東京女子医科大学八千代医療センター呼吸器内科教授の桂秀樹さんは、「COPDかどうかを胸のレントゲンだけで知ることは困難です」と指摘する。では、COPDかどうかを知るために受けるべきはどんな検査なのだろうか。
COPDのタイプによっては、進行してもレントゲンに映らないことも
どんな病気にも言えることだが、COPDを早く発見することには多くのメリットがある。
桂さんによると、「感染症にかかりやすく重症化しやすいCOPDも、治療を受けていれば増悪を起こしにくくなります」と話す。COPDで医療機関にかかると、増悪予防のためにインフルエンザや肺炎球菌などのワクチン接種を勧められるため、感染症にかかるリスクが抑えられる。喫煙者は禁煙の重要性を認識し、うまく禁煙できれば薬物療法を行わずに済むこともある。また、きちんと治療を受けることが増悪予防になる。
第1回で説明した通り、COPDでは動脈硬化のような心臓・血管の病気、糖尿病や骨粗しょう症など、肺以外のさまざまな病気も誘発する。最も注意すべきは肺がんで、COPD患者は、健康な人の約10倍も肺がんを合併しやすいといわれている。そのため、COPDが早く見つかれば、肺がんのハイリスクグループとして重点的に肺がんのスクリーニングを行うことができ、肺がんが進行する前に手を打つこともできるのだ。
COPD早期発見のメリット
早く治療を始めれば、ウイルスや細菌に感染しても重症になるのを防ぐことができる
喫煙者にとっては早く禁煙するきっかけとなる
糖尿病や心臓・血管の病気など、全身の併存症にも早く対処することができる
COPDは肺がんを併存することも多いため、肺がんの早期発見・治療にもつながる
しかし、COPDは大きく分けて気腫型と非気腫型という2つのタイプがあり(下図)、タイプによっては進行してもレントゲンに映らないことがある。自治体や職場の健康診断で受けたレントゲン検査では異常なしとされかねないのだ。
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