タフな足腰には「強い骨」が不可欠 骨折リスクは今から減らせる
第1回 骨の強さを決めるのは「骨密度」が7割、「骨質」が3割
伊藤和弘=ライター
いつまでも強い足腰を維持するためには、下半身の筋肉だけでなく、「強い骨」を維持することが欠かせない。筋肉と同じく、年をとると骨の量も減っていくが、今から生活習慣に注意することで、骨を強く保つことは可能だ。本特集では、いつまでも自分の脚で歩き、充実した人生後半を過ごすために、今日からできる「骨を強くする」生活の秘訣を、骨や関節の病気に詳しい伊奈病院整形外科部長の石橋英明さんに聞いていく。
骨の劣化は、将来の「要介護」に直結する
人生後半戦を、好きなことを楽しみながら元気に過ごすには、タフな足腰が欠かせない。いつまでも自分の足でスタスタと歩くために、日ごろから下半身の筋肉を維持・強化することを意識している読者の方々も多いことだろう。だが、筋肉量の維持と同時に忘れてはいけないのが、骨を強く保つことだ。骨がもろくなってしまうと、年をとったときに転倒や尻もちなどのちょっとした衝撃で簡単に折れてしまい、それをきっかけに寝たきりや要介護状態になってしまうことが少なくない。
下のグラフは、2016年の国民生活基礎調査で、「要支援・要介護になった原因」を調べたものだ。認知症、脳血管疾患、高齢による衰弱に続いて「骨折・転倒」は第4位で12.1%。続く第5位の「関節疾患」(10.2%)と合わせると22.3%になり、1位の認知症(18.0%)や2位の脳血管疾患(16.6%)よりも高くなっている。骨や関節のトラブルから介護が必要になる人は想像以上に多いことが分かるだろう。

なかでも高齢者の要介護に直結するのが、太ももの大腿骨の付け根を折ってしまう「大腿骨近位部(だいたいこつきんいぶ)骨折」だ。ここが折れると、手術を受けても機能が十分に回復しなかったり、長い入院生活で全身の機能が衰えるなどして、そのまま自力で歩くことができなくなってしまうことが多い。伊奈病院整形外科部長で、NPO法人高齢者運動器疾患研究所代表理事も務める石橋英明さんは、「大腿骨近位部骨折は、日本で年間約20万件も発生しています。1日当たりでは実に600件近く。この骨折を起こすと、2割の方は1年以内に亡くなってしまいます」と話す。

寝たきりを招く、危険な骨折の背景にあるのは骨の脆弱(ぜいじゃく)化だ。年を取ると筋肉が減っていくように、若いころには骨の中にみっしりと詰まっていた成分(カルシウムやたんぱく質)も徐々に減り、骨の量や、骨の密度(骨密度)が落ちてしまう。その結果、自分では気が付かないうちに骨がもろくなり、ちょっとした衝撃で、ある日いきなり骨折してしまうのだ。背骨などは、自分が骨折していることに気が付かない、「いつの間にか骨折」を起こすことも多い。
「骨の強度が下がり、骨折のリスクが高まった状態が、骨粗しょう症です。X線を用いた測定機器で骨密度を測定し、20代30代といった若年成人の平均値の70%以下まで下がっていると、骨粗しょう症と診断されます」と石橋さんは話す。

寝たきりに直結する骨折が急増するのは70代以降だが、それらは、加齢だけでなく、後述するような「骨を弱くする生活習慣」の結果としても起こってくる。私たちの骨を弱くし、健康長寿の大敵となる「骨粗しょう症」を予防するには、筋トレと同じように、若いうちから「骨を強くする生活習慣」を取り入れていくことが大切だ。特集第1回となる今回は、骨粗しょう症の成り立ちや危険因子、そして骨の脆弱化が引き起こす骨折の実態について、石橋さんに詳しく聞いていこう。