「定年退職で認知症」を防ぐ!? 医師がやっている予防法とは
第1回 仕事が忙しかった人が急に暇になると認知症リスクが増加
二村高史=フリーライター
認知症にならずに元気に過ごしたいというのは、誰もが願うところだ。リスクをゼロにすることはできないが、研究が進むにつれ、年齢を重ねても認知症になりにくい生活習慣や食生活などが分かってきた。それでは、長年にわたって認知症に取り組んできた専門家は、自分の認知症予防のために、どんな生活を送っているのだろうか。日経Goodayでもおなじみ、認知症専門医の遠藤英俊さんに聞いてみよう。

定年退職で認知症リスクが高まるのはなぜ?
認知症は誰でもなる可能性がある一方で、「まだまだ先の話」と思っている人は多い。日経Goodayの人気連載「認知症にならない元気脳の作り方」でも、40代、50代からの生活習慣が認知症予防のためには大切と繰り返し書かれてはいるものの、だからといってすぐに自分の生活を変えようという人は少数派かもしれない。
「認知症予防を身近なものとして捉えるためには、『定年退職』を一つのとっかかりとして考えてみてください」と話すのは、その連載を執筆してきた認知症専門医の遠藤英俊さんだ。遠藤さんは、医師になって35年以上、認知症に携わってきただけでなく、テレビなどにたびたび登場しては、認知症予防になる生活習慣や食生活について発信してきた。
「最近は、一つの会社に人生を捧げ、60歳になったら定年退職し、余生を悠々と過ごすという人は減ってきました。ですが、定年後の再雇用などはあるにせよ、60~65歳あたりを一区切りとして、働くのをやめる人は多いでしょう。実はそのタイミングで、認知症のリスクがぐっと高まってしまうことがあるのです。長年、専門医として診察をしていて、そういったケースをよく見てきました」(遠藤さん)
それでは、定年退職によってなぜ認知症のリスクが増してしまうのだろうか。
「退職したら、しばらくのんびり過ごしたいという人は多いでしょう。しかし、会社に行く必要がなくなって『毎日が日曜日』になると、必然的に生活のペースが乱れてしまい、通勤の必要がなくなって運動不足になります。また、頭を使う機会が減って、ぼんやりとテレビばかり見て過ごすのも危険です。人間関係のほとんどが仕事がらみだったという人が退職すると、急に誰とも話さなくなる、なんていうことも。これらはすべて、認知症のリスクにつながります」(遠藤さん)
定年退職によって生活がガラリと変わり、外出が減って家に閉じこもりがちになったり、運動不足になったり、周囲とのコミュニケーションが減ったりすることが問題なのだ。

「そうならないためには、定年の前から、できれば50代の後半から、定年後にどのような生活を送るのかを考え始めたいですね。また、もっと若い人は、自分の親など身近な人が定年退職を迎えたときに、認知症リスクの高い生活に変わってしまわないよう、注意してあげてください」(遠藤さん)
実は、このように話す遠藤さんも、2020年3月に、長年勤めた国立長寿医療研究センターを65歳で定年退職した。遠藤さん自身は、定年後の生活プランをどのように立てていたのだろうか。もっといえば、普段から認知症予防のためにどのようなことをやっているのだろうか?
認知症の専門家である遠藤さんが、自分の認知症予防のために何をやっているのかをまとめたのが書籍『医師が認知症予防のためにやっていること。』(日経BP)だ。