死亡率も罹患率も高い「大腸がん」 だが早期発見で9割以上は治る
第1回 大腸のポリープは全部取ったほうがいい?
田中美香=医学ジャーナリスト
身近な人から「がんになった」と聞かされるとき、かつて圧倒的に多いのは胃がんだった。胃がんに代わって近年増えているのは、年間5万人以上が亡くなる「大腸がん」だ。本特集では、早期の発見・治療で治りやすい大腸がんの特徴や、検査の実際、リスクを下げる日常生活の心得などについて、がん・感染症センター都立駒込病院外科部長の高橋慶一さんに聞いていく。

死亡率・罹患率は高いが、実は大腸がんは「比較的おとなしいがん」
日本人の2人に1人は何らかのがんにかかる――。多くの人はこんな話を一度は耳にしたことがあるだろう。がんは年を重ねるごとにかかる人が増えるため、高齢化によってがん患者が多くなるのも無理はない。検査技術が大きく進歩し、かつては見つからなかったがんを発見できるようになったことも、がん増加の背景にあるという。食生活の欧米化や運動不足、飲酒や喫煙など、さまざまな生活習慣が影響するともいわれている。
そんながんの中で、このところ目立って増えてきたのが「大腸がん」だ。新たに大腸がんと診断される人の割合、「罹患率」を見ると、大腸がんは男女合わせて1位に躍り出ている(男性3位、女性2位 下図)。
大腸がんで亡くなる人も増加している。その数は年間5万人を超え、大腸がんの死亡率は男女合わせて2位に上がってきた(男性3位、女性1位 上図)。約30年前まで、死亡率のトップを独走してきた胃がんが大きく減少したのとは対照的だ。
大腸がんで亡くなる人も、かかる人も多いと聞くと、「大腸がんは、かかったら死を免れない怖いがんなのだ」と思う人もいるかもしれない。ところが、がん・感染症センター都立駒込病院外科部長の高橋慶一さんによると、実はそうとは言いがたいという。
高橋さんは、大腸外科で大腸がんの治療に長年携わってきた医師。その経験から、「他のがんと比べると、大腸がんはおとなしいがんだといえます」と話す。
罹患率も死亡率もかなり高いがんなのに、おとなしいとは一体どういうことなのか。まず、がんと診断された人が5年後に生存している割合、「5年生存率」を見てみよう(下図)。全てのがんの5年生存率の平均は66.4%だが、大腸がんに限ると72.6%と、平均を上回っている。5年生存率が10%を切るほど低い膵臓がんなどと比べれば、ただちに命を脅かすがんではないわけだ。

高橋さんによると、大腸がんの生存率が高い理由には、治療効果が高いことが関係しているという。
「大腸がんの罹患率・死亡率が増えているのは事実です。しかし、他のがんに比べると、大腸がんは治療効果が非常に高いという特徴があります。手術で治しきれる可能性が高く、万一進行しても、抗がん剤による化学療法が比較的よく効くがんです」(高橋さん)
大腸がんは生存率が高いが、その割に死亡率は肺がんに次ぐ2位と、決して低いわけではない。この現象は矛盾して見えるかもしれない。だが、大腸がんにかかる人の数自体が増えているため、人口10万人当たりの死亡率がある程度は高くならざるを得ない。肺がんと比べて死亡率が低く抑えられているのは、治療効果が高いことが一因だと推察される。
他のがんでは、転移後の治療が難しいことが少なくない。一方、大腸がんは転移しても、手術で切除すれば生存率を延長できる可能性が高いという。
「例えば胃がんでは、『腹膜播種(ふくまくはしゅ)』という転移がよく起こります。腹膜播種とは、胃や肝臓などを覆う腹膜にがん細胞がばらまかれるように転移するもので、手術で取り除くのは困難です。しかし、大腸がんで腹膜播種を起こす頻度は高くありません。多いのは肝臓や肺などで、転移した部分を切除すれば生存率を高めやすいのです」(高橋さん)
だが、いかに大腸がんの治療効果が高いといっても、それは早期に発見・治療してこその話だ。