家で、オフィスで、「座りっぱなし」があなたの健康をむしばむ
第1回 運動の効果を打ち消す「座りっぱなし」は、現代人の天敵
梅方久仁子=ライター
家やオフィスで、1日中座りっぱなしの生活が続くと、腰痛や肩こりなどに悩む人は多いだろう。だが長時間の「座りっぱなし」には、もっと大きなリスクが潜んでいる。「長時間ゴロゴロ」や「いすやソファに座りっぱなし」の生活を送っていると、肥満や糖尿病、心臓病、がんなどを発症するリスクが高まり、ひいては寿命が短くなる恐れがあるというのだ。本特集では、「座りっぱなし」が引き起こす恐ろしい健康被害と、それを解消する秘訣を探っていく。
「座りっぱなし」の弊害は、腰痛や肩こりにとどまらない
新型コロナウイルスの感染防止のために家にこもる時間が長く続き、運動不足から健康に不安を感じている人は多いはずだ。
読者の方々の中には、「毎日ウォーキングをしているから、私は大丈夫」と思っている人もいるかもしれない。「毎晩のスクワットを習慣にしている」という人もいることだろう。こうした運動は、健康維持のためにとても重要であり、意味のあることだ。だが残念ながら、そこには意外な落とし穴がある。
「積極的に運動をしていても、そのほかの時間を『長時間ゴロゴロ』や『いすやソファに座りっぱなし』で過ごしていると、死亡リスクが高まる恐れがあることが、近年の研究で明らかになってきているのです」。早稲田大学スポーツ科学学術院教授の岡浩一朗さんはそう話す。
「座りっぱなし」による健康への悪影響というと、パッと思い浮かぶのは、長時間同じ姿勢を続けることによる、腰痛や肩こりではないだろうか。だが実は、「座りっぱなし」には、そうした不調にとどまらない、寿命を縮めるほどの全身への悪影響があると岡さんは言う。例えば、22万人以上の中高年を対象にオーストラリアで行われた研究(*1)では、平日の1日に座っている時間が4時間未満の人に比べて、8~11時間座っている人では死亡リスクが15%上昇し、11時間以上の人では40%も高くなっていた。座りっぱなしは、肥満、糖尿病、心疾患、脳卒中、うつ病、認知機能の衰えなどにも影響することが分かっている(具体的な健康リスクのエビデンス〔科学的根拠〕は第2回で紹介予定)。

ではいったい、何時間「座りっぱなし」でいると危ないのだろうか。普段デスクワークが多い人や、外出機会が少ない人は、どうすれば「座りっぱなし」のもたらすリスクを回避することができるのだろうか――。本特集では、現代人につきまとう「座りっぱなし」(座位行動)による健康被害の実態と、そうしたリスクを軽減する具体的な方策について、この分野の研究の第一人者である岡さんに詳しく聞いていく。
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