気になる血圧 「健診結果で一喜一憂」は意味がない
降圧目標は130/80mmHgに引き下げ
日経トレンディ
新型コロナウイルスによるパニックが世界規模で拡大する中、改めて注目されているのが「正しい医療情報」の価値だ。「感染症」をはじめ、血圧などの「健康診断」の基準値、5大がんの死亡率を下げる「がん検診」など、氾濫する医療情報のうち本当に正しいものはどれか。今受けるべき医療、ムダな医療を現役医師に聞いた。
3回目となる今回のテーマは、「血圧」の基準値。基準値を守ることは果たして正しいのか。高血圧と診断される基準値と成人の降圧目標値が異なる理由や、1日のうちでも変動の大きい血圧の数値の見方などについて解説する。

高血圧の診断ガイドラインは2019年に刷新され、高血圧と診断される基準は、収縮期(最高)血圧140mmHg・拡張期血圧(最低)90mmHgというラインは変更が無かったものの、一般成人の降圧目標はそれより10ずつ低い130/80mmHgへと変更された。

この判断について、自治医科大学循環器内科学部門教授の苅尾七臣氏は「健康には理想と現実がある。基準値は、元気で長生きする理想を目指す」と説明する。

降圧目標が下がったワケ
ガイドラインの見直しの根拠となったのは、米国で行われたSPRINTと呼ばれる大規模な研究だ。50歳以上の高血圧患者9000人以上を、120mmHg未満と厳格に降圧する群と140mmHg未満と通常通りに降圧する群に分けて、心血管病の発症を比較。すると「厳格群」の方が有意に病気の発症が少ないという結果が出た。
これを受けて、米国は高血圧の診断基準値を140/90mmHgから130/80mmHgに引き下げた。「米国の学会は、SPRINT研究が十分なエビデンスとはいえないと断りつつ、高血圧治療が進んでいない状況を鑑みて、診断基準値の引き下げに踏み切った。日本は、SPRINT研究以外にも国内外の様々な研究結果を分析し、診断基準値は維持することが望ましいと判断した」と、横浜労災病院院長の梅村敏氏は言う。
日本をはじめ世界中で高血圧を治療できている人が少ないという実情がある。日本人の成人の中で140/90mmHgの基準内に入っている人は3割程度で、高血圧有病者数は4300万人に上る。「高血圧の治療は進歩しているにもかかわらず、降圧目標値への到達度が低いという現状はハイパーテンションパラドックスと呼ばれている」と、梅村氏は言う。
「治療を開始している人の中で降圧に成功している人は半分程度のうえ、そもそも高血圧を認識していない人も多い。少しでも認識してもらうために、これまで『正常高値血圧』と表現していた130~139/80mmHgのボーダーの人たちを『高値血圧』と言い換えることにした」(苅尾氏)。このカテゴリーの人も、生活習慣の改善をし、血圧を下げることを目指すのが望ましい。
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