感染症 6つの誤解を解消し、免疫力を正しく身に付ける
意外に多い「防げる感染症」
日経トレンディ
新型コロナウイルスによるパニックが世界規模で拡大する中、改めて注目されているのが「正しい医療情報」の価値だ。「感染症」をはじめ、血圧などの「健康診断」の基準値、5大がんの死亡率を下げる「がん検診」など、氾濫する医療情報のうち本当に正しいものはどれか。今受けるべき医療、ムダな医療を現役医師に聞いた。
第1回となる今回は「感染症」。ウイルスに対するアルコール消毒の効果、実は受けていないかもしれない「大人のワクチン接種」など、感染症の基礎知識を紹介する。

新型コロナウイルス感染症が100年以上前に大流行した「スペイン風邪」と比較されるなど、今改めて感染症が注目されている。
医学や衛生状態の進歩で、致命的な感染症は激減し、例えば天然痘は1980年に世界保健機関(WHO)から根絶宣言が出された。しかし、それ以降もエイズ、エボラ出血熱、SARS、MERSと、数年置きに新たな感染症が登場。現在、国内の感染症法で指定されているだけで100種類以上あり、毎年何千万人もの人がいずれかに罹患している。結核や百日せきも減ってはいるが、決して過去の病気ではない。

しかし、がんや心疾患などの病気に比べると、感染症への対策はシンプルといえる。感染症は、ウイルスや細菌などの病原体が人体(宿主)に取り込まれることで感染、発症する。このため、感染しやすそうな状況でその経路を塞げば、自然に予防になる。例えば、飛沫感染や接触感染は手洗いで、空気感染は換気で、性感染はコンドームでリスクを下げられる。また病原体が付いていそうな生活用品や食品を洗浄、消毒、加熱などで減菌するのも、特に食中毒系の感染症では有効だ。

そして、もう一つの強力な対策がワクチン接種。世の中には「免疫力を高める」とうたう食品やサプリがいくつもあるが、「科学的根拠を持つ商品はまず無い」(ナビタスクリニックの久住英二氏)。一方ワクチンを接種すれば、かなりの高率でその病気に対する免疫(抗体)ができる。国内で現在認可されているワクチンは、「抗菌薬など他の医薬品と比べて、桁違いに副作用(副反応)が少ない」(感染症コンサルタントの堀成美氏)といえる。例えば、インフルエンザワクチンで重篤な副反応が起きるのは約100万人に1人で、交通事故で死亡する確率より低い。
なお、「ワクチン接種は子供のときにするもの」というイメージがあるが、意外に深刻なのが大人のワクチン接種不足。特に78年度以前に生まれた男性で風疹の抗体保持者が少ないことが問題になっている。妊婦が風疹に感染すると、胎児に影響が出る恐れがあるからだ。このため62~78年度生まれの男性には、自治体からMR(麻疹・風疹)ワクチンの無料クーポンが、2019年から段階的に送られている。自分のワクチン接種歴を見直すよい機会になるだろう。
次ページから感染症に関する「6つの誤解」について解説する。