結局のところ、“自分にとって”最適な糖質量はどのくらいなのか
第1回 食後高血糖にならないようにすることこそ大事! そのためにすべきこと
柳本操=ライター
「糖質制限がいいのか悪いのか」は繰り返し議論になる。糖質制限がダイエットの定番の1つとなる一方で、「糖質制限のし過ぎは体に悪い」という意見もたびたび登場する。私たちは糖質とどう付き合えばいいのか。
それを判断する1つの指標が「血糖値」だ。血糖値の測定環境は急速に整備されつつあり、「血糖値を適正値に抑えるための糖質のとり方」を自分で調べられるようになっている。本特集では、緩やかな糖質制限「ロカボ」を提唱する糖尿病専門医の山田悟さんに、高血糖のリスクから、血糖値の測定、そして最新食事法を聞いていく。
健康を気にする人なら、「糖質制限」は最も関心が高いキーワードの1つだろう。
「糖質制限がいいか悪いか」は、とかく話題になる。糖質制限はここ数年で、ダイエットの定番の1つとしてすっかり定着した。糖質量が少ない食品(低糖質食品)もコンビニやスーパーなどの店頭でよく目にする。その一方で、「糖質制限のし過ぎは体に悪い」といった意見もたびたび登場する。
結局のところ、「糖質は抑えたほうがいいの? それとも気にしなくていいの? どっち?」と戸惑う人も多いだろう。
今回の特集では、原点に立ち返って考えていきたい。そもそも糖質のとり過ぎがどんな問題を起こすのか――。大切なのは「糖質のとり方が健康にどのような影響を与えるのか」を正しく理解し、それに沿った対策を講じることにある。
「糖質のとり過ぎ」は何が問題なのか?
糖質のとり過ぎの何が悪いのか。それは「血糖値が上がり、血糖上昇が全身の血管、各種臓器などを傷めるから」に他ならない(詳しくは後述)。

血糖値が一定以上に高くなれば「糖尿病」と診断される。糖尿病は“誰もがなりたくない”と願う病気の1つで、様々な合併症を引き起こし、私たちの健康・命を蝕んでいく(詳しくは後述)。人工透析による治療が必要となる腎不全も糖尿病の合併症だ。
糖尿病の前段階(予備群)とされる、「食後に一時的に血糖値が急上昇する」のもよくない。これは「食後高血糖」と呼ばれる状態で、近年そのリスクが大きく指摘されるようになった。実は食後高血糖の段階から血管が傷み、心疾患のリスクが上がることが分かっている。そしてこの状態を放置すると、本当の糖尿病へと移行するリスクが高まっていく。
実際、若い頃なら糖質を多くとっても、血糖値が異常値になることはなかったかもしれない。しかし、歳を重ねるうちに、糖の代謝能力は徐々に、そして確実に衰えていく。そんな人が、昔と同じ糖質量をとり続けたらどうなるのか――。当然、血糖値の急上昇を招くことになる。
カギとなるのが「食後の血糖値」をいかに把握するか

では、摂取する最適な糖質の量とはどのくらいなのか。
ここでポイントとなるのが「血糖値」だ。糖尿病専門医で、緩やかな糖質制限「ロカボ」を提唱する北里研究所病院 糖尿病センター長の山田悟さんは、「重要なのは『血糖値を正常な範囲の中に保つ』こと」だと話す。
「血糖値が高い状態、そして食後高血糖も全身の血管を傷めますから、避けなければいけません。だからこそ、自分の食後の血糖値を把握することが大切になります。自分が食べた糖質量(そして食べ方)によって、食後の血糖値がどのくらいになるかをきちんと把握できれば、(血糖値の急上昇を避ける)最適な糖質量や食べ方が見えてきます」(山田さん)
ところが、「食後高血糖は通常の健康診断では分かりません。食後高血糖を起こしているのに見逃されている人が多くいるのです」と山田さんは話す。
自分の“食後”の血糖値を把握することが大切であるにもかかわらず、この食後血糖値は通常の健診では分からない――。言い方を変えれば、自分の食後の血糖値を把握するのが難しいから(*1)、最適な糖質の量や食べ方が見えてこなかったとも言える。
ところが近年、そんな状況が変わりつつある。自分の血糖値をリアルタイムに測定できる機器が登場するなど、血糖値を測る環境が整ってきたのだ。
この環境を生かして、自分の食後の血糖値を把握して、自分に合った糖質量(および食べ方)を探す――。これが今回の特集のゴールだ。特集では、食後高血糖や糖尿病のリスクから、血糖値の測定方法、血糖値の上昇を抑える食事法までを、山田さんに聞いていく。