「合わないメガネ」が要介護の原因に?!
第3回 メガネ・コンタクトレンズは2~3年に1度は買い替えよう
田中美香=医療ジャーナリスト
眼の見えにくさをもたらす原因は何かと問われると、多くの人は、「白内障や緑内障」と答えるのではないだろうか。だが実際は、眼の病気以上に、視力をきちんと矯正していないことの方が視覚障害の原因になっているという。また、白内障に関しても意外と誤解されていることがあり、手術は受けられるうちに済ませた方が介護予防につながるという。眼の健康を守る上で盲点となることは何か、順天堂大学医学部眼科学教室先任准教授の平塚義宗さんに教えてもらおう。
人生100年時代を迎えた今、健康寿命を延ばすための手立ては数あれど、その1つである、「眼」を守ることへの意識は意外と抜け落ちがちだ。前回は、眼の健康を守る対策のうち、「眼底」の検査を受けて眼の病気や全身の血管の状態を知る重要性について解説した。眼底検査を受ければ、緑内障や糖尿病網膜症などを早く見つけて失明を回避し、介護を予防することにもつながっていく。
では、眼底検査に続く、お勧めの対策は何か。順天堂大学医学部眼科学教室先任准教授の平塚義宗さんは、「自分の眼にきちんと合うメガネ・コンタクトレンズを使うことや、白内障手術のタイミングを逃さないことも大切です」と話す。
今回は、見えやすい眼を保って健康寿命を延ばす4カ条のうち、残る3つについてお話ししよう。
― 見えやすい眼を保ち、健康寿命を延ばす4カ条 ―
1.
「眼底」の検査を受ける
2.
自分の眼にしっかり合ったメガネ・コンタクトレンズを使う
3.
白内障と診断された人は、タイミングを逃さず手術を受ける
4.
社会全体で「眼の健康」に対する意識を高める
世界の視覚障害の原因は、白内障でも緑内障でもなく…
日常的にできる対策として、平塚さんが勧めるのは、「自分の眼にしっかり合ったメガネやコンタクトレンズを使う」ことだ。
読者の皆さんの中には、「メガネを作るとき、きちんと眼科で度数を合わせてもらったから問題ない」と思う人も多いのではないだろうか。しかし、実際には、「合わないメガネ・コンタクトレンズを使っている人が非常に多いのです」と平塚さんは指摘する。

あまり知られていないが、世界中で視覚障害(視力や視野に障害があり、生活に支障を来している状態 *1)をもたらす最大の原因は、緑内障でも白内障でもない。それは、「未矯正の屈折異常」、つまり近視、遠視、乱視など、ピントが合わない状態(屈折異常)があるのに、それを適切に矯正していないことだという(*2)。
「世界39カ国のデータを分析した研究によると、50歳以上で視覚障害がある人のうち、43%が視力を矯正していない、あるいは矯正が不十分で、十分な視力で物を見ていないといいます(*2)。先進国の場合は、経済的な理由から、メガネやコンタクトレンズが買えない・買い替えられないという意味ではありません。合ったメガネをかければきちんと見えるのに、そうしていない人が多いだけなのです」(平塚さん)
完全に失明してしまうと、日常生活に支障が出て介護が必要になりやすいため、健康寿命が短くなる恐れがあることは想像しやすいだろう。一方、メガネやコンタクトレンズが合わないことが、まさか健康寿命にまで影響するとは考えにくいのではないだろうか。
だが、物が見えにくければ、転倒しやすくなり、骨折して寝たきりになるリスクが高まっていく。さらに、見えにくさを理由に人づきあいや社会参加が減ると、介護をもたらす最大の原因、「認知症」の発症リスクも高まってしまう(第1回参照)。メガネやコンタクトレンズで視力を適切に矯正しておくことは、実は介護を遠ざけ、健康寿命を延ばす上で大切な要素の1つなのだ。