健康寿命を縮める隠れた犯人は、「眼」の見えにくさだった!
第1回 よく見える眼を維持すれば、健康寿命を延ばせる
田中美香=医療ジャーナリスト
人生100年時代が迫る今、いかに介護を予防して健康寿命を延ばすかが一大関心事となっている。しかし、介護をもたらす原因の多くに、「眼」の見えにくさが深く関わっていることはあまり知られていない。本特集では、健康寿命の延伸と眼の間にどんな関係があるのか、見えやすい眼を維持する秘訣は何なのか、順天堂大学医学部眼科学教室先任准教授の平塚義宗さんに聞いていく。
介護をもたらす原因の多くに「眼」が関係している

日本人の平均寿命は、男性81.3歳、女性87.3歳となり、人生100年時代がいよいよ現実味を帯びてきた(*1)。これに対し、介護を受けたり寝たきりになったりしないで日常生活を送れる期間、「健康寿命」は、男性72.1歳、女性74.8歳(*2)。そこにある10年前後のギャップを縮め、老後を元気に過ごすために、多くの人があれこれと健康に気を配っている。
例えば、一生自分の足で歩けるようにと、筋トレやウォーキングで足腰を鍛えている人は、読者の中にも多いことだろう。食事に関しても、栄養バランスに配慮して病気を防ぎ、一生自分の歯で食べるために食後の歯磨きを欠かさないのが当たり前となった。いうまでもなく、いずれも健康寿命を延ばす上で有効な手段であることが知られている。
だが、順天堂大学医学部眼科学教室先任准教授の平塚義宗さんによると、健康寿命を延ばすための方策の中で、見落とされがちなものが存在するという。それが「眼」だ。平塚さんは、眼科医の立場から健康寿命の延伸についてさまざまな研究を行っている。健康寿命を延ばすことへの関心が高まる中、眼の健康への意識が抜け落ちていることを危惧しているという。
「健康寿命を延ばすためには、介護を要する期間を短くするしかありません。しかし、眼を大切にすることが要介護になるリスクを減らし、ゆくゆくは健康寿命の延伸につながるという事実を、ほとんどの人がご存じないのではないでしょうか」(平塚さん)
眼と健康寿命が関係すると聞いても、ピンとこない人も多いかもしれない。だが、このことは数々のデータによって裏づけられている。まずは、図1を見てほしい。

「介護が必要となる原因を順番に見ていくと、視覚障害は下のほうに位置しています。一見すると、それほど眼が重要な存在だとは思えないでしょう。ところが、実は上位を占める原因のほとんどに、眼が深く関わっています。意外に思うかもしれませんが、眼は、全身の状態と深い関わりを持つ器官なのです」(平塚さん)
一体、全身の状態と眼がどう関係し、健康寿命に影響を及ぼすのか、平塚さんに詳しく聞いていこう。