糖尿病や肥満、認知症――全身疾患と腸内細菌の関連を解明すべく、世界中で腸内細菌の研究が進められている。これら最新研究から、菌の多様性や菌の代謝物が重要だということがわかってきた。本特集では、最新研究に基づくカラダと腸の深い関係について3回に分けて紹介していこう。第1回では、腸内細菌研究の最新事情と、「腸と免疫」の関係を解説する。
腸内細菌の種類や代謝物が健康に大きく関連

腸の中に40兆個あるともいわれる腸内細菌。早稲田大学理工学術院の服部正平教授は「膨大な数の遺伝子が調べられるメタゲノム解析が可能になったことで、ある程度、腸内細菌叢のパターン(バランス)が病気などと関連することが見えてきた」と話す。
神戸大学大学院医学研究科の山下智也准教授らは、動脈硬化など冠動脈疾患の患者の腸には、バクテロイデス・ブルガタスとバクテロイデス・ドレイという2菌が、健常な人に比べ少ないことを突き止めた。
「動物試験で、この菌を経口摂取させることで動脈硬化の抑制も確認された。この2菌が腸に多いと、大腸菌などが作る炎症誘因物質の活性が弱まることもわかってきた」と山下准教授。肥満の人の腸ではそうでない人に比べファーミキューテスという種類の菌が多く、バクテロイデスという種が少ないという研究や、認知症の人にバクテロイデスが少ないという研究報告も。「バクテロイデスがどれだけいるかで、病気になるかどうかが決まる可能性がある」と話す。
ただし、特定の菌だけが多ければいいというわけではなさそうだ。ある環境ではプラスに働く菌が、環境が変わればマイナスに働くこともあるという。
「近年わかってきたことは、健康を維持するには、腸内細菌の多様性が高いほうが良さそうということ。その上でどのような腸内細菌のパターンを持っているといいのか、追求が進んでいる」と服部教授。かつてのような善玉菌、悪玉菌、日和見菌という単純な分類だけでは判断しきれないという。
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