肩の老化防止は「胸郭」を開くストレッチから!
第3回 五十肩や腱板断裂が起こる前に、胸郭を開く姿勢を身につけよう
田中美香=医療ジャーナリスト
中高年に多い五十肩などの肩トラブルの原因や対処法を探る本特集、最終回のテーマは、肩トラブルの予防法。船橋整形外科病院スポーツ医学・関節センター長の菅谷啓之さんによると、肩トラブルを起こりにくくするためには、問題の根本である「胸郭」を開いて柔軟性を取り戻すことが欠かせないという。そんな肩に効く「胸郭ストレッチ」の方法を具体的に解説していこう。
肩トラブルの原因は、肩だけにあるとは限らない
中高年を悩ませる、五十肩などの「肩」の痛みや、動かしにくさ。その原因は肩の関節だけにあるわけではない。多くの場合、「胸郭」の柔軟性が落ちることが元凶となっている(第1回参照)。
胸郭とは、胸全体をぐるりと取り囲むカゴ状の骨格のことで、肋骨や胸椎(背骨)、胸の中心部にある胸骨からなり、中には心臓や肺などの臓器が入っている(図1)。普段、意識することはほぼないが、腕を上げ下げしたり、体をねじったりする動作のたびに、胸郭はしなるように動いている。いかにも硬そうに見える骨の集合体なのに、実は胸郭には柔軟性が備わっているのだ。

「肩が痛い、腕を自由に動かせない、といったトラブルが起きたとき、皆さん肩だけを見て対処しようとします。でも、それではあまり意味がありません。もっと大切なのが、胸郭が開くように柔軟性をつけることです」。肩の病気に詳しい、船橋整形外科病院スポーツ医学・関節センター長の菅谷啓之さんはそう話す。
中高年になると全身の筋力が落ちて姿勢が崩れやすくなり、胸郭の柔軟性も低下しやすい。それがもとで肩甲骨の動きが悪くなり、肩に余計な負担がかかってしまう。これが、中高年が肩を痛める典型的なパターンだ。
「背筋が伸びていれば、両手を真上に上げることは簡単です(図2-左)。しかし、背中を丸めた状態で腕を上げると、真上まで上がりません(図2-右)。これは、肩甲骨の位置がずれて、自由に動けなくなっている証拠です。これに加えて、肩周辺の筋肉や靭帯が老化により劣化しているため、ちょっと無理な動きをしただけで肩に炎症を起こすことがあります」(菅谷さん)
例えば、干した洗濯物に手を伸ばすような、そんなささいな動作でも肩に違和感が生じ、炎症につながることも少なくないという。船橋整形外科病院の理学療法士、高見悠也さんは、「まさかその程度の衝撃で、と思うかもしれませんが、こうした例は実際よくあります」と話す。

(右)背中が丸くなり、胸郭や肩甲骨の動きが悪くなると、腕は真上まで上がらない
では、どうすれば肩トラブルが起こりにくくなるのだろうか。そこで菅谷さんが勧めるのは、「胸郭」を開くストレッチだ。
「肩トラブル予防の第一は、胸郭の柔軟性をつけることです。柔軟性がついて胸郭が開くようになると、胸郭の筋肉上に乗っている肩甲骨も動きやすくなります。肩関節の機能は下半身にも支えられているので、股関節に柔軟性をつけ、お尻や太ももなどの筋肉を鍛えることも大切です」(菅谷さん)
以下に、理学療法の視点を交えながら、肩のトラブルを予防するためのストレッチ法について、詳しく紹介していこう。