中高年が「肩」を痛める元凶は「姿勢の崩れ」と「胸郭」にあり!
第1回 加齢によって悪い姿勢が定着すると、五十肩や腱板断裂を引き起こす
田中美香=医療ジャーナリスト
年齢とともに増えてくる関節の悩みの1つが、肩が痛い、腕が上がらないなどの「肩」に関するトラブルだ。実は、肩の関節はとても不安定で、加齢に伴い動きがどんどん悪くなっていく。本特集では、肩関節の知られざる特性や、代表的な肩トラブルである「五十肩」と「肩腱板断裂」の予防や治療について、肩関節診療に詳しい船橋整形外科病院スポーツ医学・関節センター長の菅谷啓之さんに詳しく聞いていく。
中高年が肩を痛めやすいのにはワケがある
肩が痛くて上がらない、背中に手が回らない…40代、50代になると、徐々に体のあちこちにガタがきて、ちょっとした動きで関節や筋を痛めてしまうことがある。その1つが「肩」だ。いわゆる「五十肩」のように、突然、肩の関節周辺に痛みが出たり、腕を動かしにくくなったり…そうした中高年の肩のトラブルには、いくつかの典型的なパターンがある。

船橋整形外科病院(千葉県船橋市)スポーツ医学・関節センター長の菅谷啓之さんによると、特に多いのが「50歳前後から急に運動を始め、肩を痛めるパターン」だという。菅谷さんは年間900件もの手術を手がける、肩関節のスーパードクターとして知られる整形外科医。これまでに数えきれないほど、急な運動で肩を壊す中高年を診てきたという。
「運動不足を気にしている中高年の方が、『時間の余裕ができたから』と言ってジムに入会し、張り切ってベンチプレスなどを試すうちに肩に違和感を生じる、といったケースは実に多いです。本人は体の衰えを自覚していないため、若いころと同じような意識で運動を続けた結果、肩を痛めやすいのです」(菅谷さん)
一方、「特別な運動はしていないのに、日常のふとした動作で肩を痛める」というのも中高年の肩のトラブルによくあるパターンだ。車の後部座席に置いた荷物を取ろうとして後ろに腕を伸ばし、肩にピキッと衝撃が走って…という場面は、思い当たる節のある人もいるだろう。
今現在は肩の動きに違和感を覚えず、肩の衰えを意識したことがないという人も、明日はわが身だ。肩関節の機能は、年齢とともに徐々に衰える。肩は、自由に動かせる範囲が大きい分、その構造は不安定で、骨盤の傾きや、胸をぐるりと取り囲む「胸郭」と呼ばれる骨格など、私たちが思いもよらない部分とも連携することで、スムーズに動くことができている。この連携が加齢に伴って悪くなってくると、ある日突然、肩の痛みや、動かしにくさとなって現れ、生活に著しい支障を生じさせることになる。
本特集では、身近な器官でありながら、意外と知らないことの多い「肩」について掘り下げ、代表的な肩のトラブルである「五十肩」と「腱板断裂」の正体やその対処法、そして肩の衰えを予防するための具体的な方策を探っていく。肩関節を熟知するスーパードクター、菅谷さんに詳しく解説していただこう。
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