手洗い・サプリ…エビデンスのある風邪予防法はどれ?
伊藤和弘=ライター

岸田さんによれば、うがいはのどの粘膜についたウイルスを洗い流す作用が期待されているが、ウイルスは早くて20分程度で細胞内に侵入してしまうため本当に洗い流せるかというと難しい。
「優先順位でいえば手洗いがとにかく大切で、手洗いをせずにうがいだけをするのは本末転倒ですが、かといって、水うがいは害もほぼなく、一部効果も示されているので、完全に否定できるものではありません」
例えば387人を「うがいしない」「水でうがい」「ヨード水でうがい」の3グループに分け、実行してもらった京都大学の研究がある。1カ月間の風邪の発症率は「うがいしない」が26%だったのに対し、「水でうがい」は17%に抑えられた。意外なことに「ヨード水でうがい」は24%で、水でうがいしたほうが予防効果が高かった(*2)。
これは「ヨード水が口の中の細菌叢(そう)を乱してしまうからと考えられます」と岸田さん。腸の中と同じく、口の中にも多くの細菌がいる。それが風邪などの原因となる病原微生物の侵入を防いでいる可能性もあるのだという。「私は患者さんに、普通の水や白湯でのうがいで十分だと説明しています。決まった方法はありませんが、1日に4~5回すれば十分でしょう」
マスクについては、顔に密着するタイプの微粒子用マスク(N95マスク)ならウイルスの感染リスクを低減できるが、市販のマスクは隙間ができるため予防効果がないといわれる。だが岸田さんは、「少なくとも満員電車など多くの人が密着状態にある空間では、しないよりはしていたほうがいいでしょう。それにマスクをしていると、ウイルスが付着した手で口や鼻を触ることで感染するリスクは、ある程度防げると考えられます」と話す。
寒いと風邪をひく?
よくある風邪の予防法に「暖かくしておく」というものがある。しかし、もともと風邪はウイルスの感染症であり、「寒いから風邪をひく」という明確なデータは今のところないという。
なぜ、そんな思い込みが生まれるのか。岸田さんは「大きく2つの理由が考えられます」と話す。
まず、「熱が出るときに寒いと感じる」から。本来は熱が出ることで寒さを感じたわけだが、それを「寒かったから風邪をひいた」と錯覚してしまうのだ。もう一つは、冬は風邪のウイルスは広がりやすく風邪を発症する人が多くなるから。それで同じく、寒かったから風邪をひいたように思ってしまうわけだ。
「風邪はウイルスの感染症なので、ウイルスにさえ感染しなければ、いくら気温が低くても風邪をひくことはまずありません。結局、真に効果的な風邪予防は家から一歩も出ないこととなりますが、それは現実的ではないですね(笑)」(岸田さん)
寒さが風邪の原因になるわけではないからといって寒いのを我慢してもいいわけではないが、風邪の予防には暖房や厚着よりも、手洗いやうがいのほうが有効なことは覚えておこう。
睡眠不足は風邪をひきやすくなる
栄養が偏った食生活、運動不足、睡眠不足など、不健康な生活をしていると風邪をひきやすいというイメージがある。

実際、睡眠不足の人は、睡眠を十分にとっている人より風邪の発症リスクが高いという報告(*3)や、適度な運動は風邪のリスクを減らすという研究(*4)があるという。
「ただ、実はまだ十分なエビデンスがあるとはいえません。とはいえ、栄養のバランスが取れた食事をし、適度な運動もしているような人は普段から様々な点で健康に気を配っているでしょう。その結果、風邪もひきにくいということはあると思います」(岸田さん)
どこまで風邪を予防できるかはともかく、病気にならずに過ごすためには自分自身の健康に関心を持ち、食事、運動、睡眠が大きく偏らないよう健康の維持増進に努めることが重要だ。さらにエビデンスのある手洗いや、うがいやマスクも状況に合わせて利用する。100%の予防は無理でも、風邪の予防効果が期待できることは間違いない。
*3 Prather AA,et al.Sleep. 2015;38(9):1353-1359.
*4 Nieman DC.Med Sci Sports Exerc. 1994;26(2):128-139.
総合診療医、感染症医、感染症コンサルタント
