怖い病気の陰に中性脂肪! 実はコレステロールと違って下げやすい
第1回 血管にたまらないのに動脈硬化を招く、中性脂肪の正体
田中美香=医療ジャーナリスト
健康診断の結果を見て、気にする人が多い「中性脂肪」。新年のこの時期、最も注意すべき検査値の1つだ。基準値を超えても自覚症状が出ないため、ついつい放置しがちだが、中性脂肪は、動脈硬化はもちろん、急性膵炎や脂肪肝とも密接に関わる重要な指標。では、中性脂肪を減らすために何をすればいいのか。本特集では、2019年6月のコレステロール特集に続く「鉄板の脂質対策」第2弾として、中性脂肪のリスクと効率良く減らす方法を、帝京大学名誉教授の寺本民生さんに聞いていく。
今の時期こそ要注意! 中性脂肪は生活の乱れを映す鏡
血管の老化(動脈硬化)を防ぎ、心筋梗塞や脳梗塞を遠ざけるために、チェックしたい健康診断の指標といえば、血圧、血糖値、そして「脂質」。その脂質の2大要素が、「コレステロール」と、本特集でフォーカスする「中性脂肪」だ。

中性脂肪は健康診断でもおなじみの項目。読者の中にも、健康診断の結果を見て、「また中性脂肪が引っかかった」とぼやく人は少なからずいるだろう。血液中の中性脂肪が150mg/dLを超えると、脂質異常症の1つ、「高中性脂肪血症(高トリグリセライド血症)」と見なされる。
脂質というと、多くの人が最初に思い浮かべるのは、悪玉(LDL)コレステロールに代表されるコレステロールかもしれない。もちろんコレステロール値を適正に保つことは、血管の健康を維持し、さまざまな病気のリスクを下げるために極めて重要だ。
しかし、中性脂肪も血管の健康に大きく関わる重要なファクター。後述するように、中性脂肪が上がると悪玉コレステロールが凶悪になり、善玉コレステロールが減少。動脈硬化が進み、心筋梗塞などを起こしやすくなる。
脂質異常症はサイレントキラーと呼ばれる通り、異常値になっても症状はない。痛くもかゆくもないからと放置しておくと、突然死に至ることもある。さらに、中性脂肪値が非常に高くなると急性膵炎のリスクも高まるという。
特に、正月が明けて一段落したタイミングのこの時期こそ、中性脂肪に注意を払いたい。中性脂肪は、生活の乱れを映す鏡のような存在であり、1月は中性脂肪の値が跳ね上がる人が多いシーズンだからだ。
帝京大学名誉教授の寺本民生さんは、長年にわたり患者の血液の状態を見てきた中で、1月は中性脂肪値が高くなる人が多いことを実感すると話す。寺本さんは、『脂質異常症がよくわかる本』(講談社)、『脂質異常症 診療ガイド Q&A』(南山堂)などの著書も数多く手掛ける脂質対策のプロフェッショナルで、2019年の特集、「鉄板のコレステロール対策」でも解説していただいた。

1月に中性脂肪値が高くなる原因について、寺本さんは、「いうまでもなく年末年始の食べ過ぎ・飲み過ぎのせいです」と話す。
「私たち医師が新薬の効果を調べる治験(*1)を行うとき、年末年始は避けています。理由は単純で、この時期は血液検査の数値が悪い人が明らかに多いからです。特に目立って悪い数値が出やすいのが、『中性脂肪』です」(寺本さん)
中性脂肪の値は、食事に加えて、お酒や甘いものの過剰摂取、運動不足のせいで高くなる傾向がある。忘年会・新年会でお酒を飲む機会が増え、クリスマスにはケーキもしっかり食べる。宴会では座りっ放しの時間が長くなり、正月のゴロ寝も相まって運動不足に拍車がかかってしまう。これでは1月に中性脂肪が上がるのも無理はない。
今回フォーカスする中性脂肪、実は誤解も少なくない。その1つが、「中性脂肪が増えると、血管の壁にこびりついて血管を塞ぐ」というもの。確かに、中性脂肪が増えると、フライパンに油がこびりつくように、血管の内壁にこびりつくのでは…と思いがちだ。しかし、寺本さんによると、それは誤解だという。
私たちは、「脂っこいものを食べ過ぎると中性脂肪の値が上がる」と思ってしまうが、それも違うという。中性脂肪の値を下げるには、脂っこい食べ物より、糖質の摂取を減らすことのほうが重要なのだ(中性脂肪に効く食事については第3回で解説)。
また、「中性脂肪はなかなか落ちない」と思っている人もいるかもしれないが、それも誤解だ。エネルギーにならないコレステロールと違い、中性脂肪はエネルギー源になる。つまり、運動など、正しい対策を講じれば着実に減らすことができる。
寺本さんは、中性脂肪の数値が上がる人の多い1月こそ、中性脂肪対策を始めてほしいと話す。中性脂肪に関する誤った情報を軌道修正しながら、中性脂肪の正体について寺本さんに聞いていこう。
