70歳、75歳、80歳! 3度のエベレスト登頂の夢は「一歩ずつの繰り返し」で達成
冒険家・三浦雄一郎さんの攻め抜く健康法(後編)
柳本操=ライター
高度順応の際に取り入れた「年寄り半日仕事作戦」
大ケガを克服し、いよいよ80歳のエベレスト登頂を目前にした半年前。8848メートルという高度に体を慣らす「高度順応」のトレーニングがヒマラヤで始まった。
エベレストは「宇宙に一番近い場所」と表現される。
人間の有酸素能力をはるかに超えた超高所で登山をするということは、肉体への負荷は極めて大きくなる。エベレスト山頂では、20歳の登山家でも90歳相当になると言われることもある。肉体年齢が70歳近く加算される状態、つまり三浦さんなら150歳の身体能力になるという計算だ。さらに、いつどんな悪天候にさらされるかもわからない。
「この会場の空気の酸素濃度は21%ぐらいですね。エベレスト山頂の酸素濃度は7%以下になります。この会場の酸素濃度を7%以下にすれば1分で気を失い、5分で命を失うでしょう。そうならないために、高さに体を慣らす高度順応が行われます。私も4000メートル、5000メートル、7000メートルと、徐々に高さを積み上げるトレーニング期間に入りました」(三浦さん)
5200メートルに達したころに、完全に治療していなかった虫歯が悪化。夜眠れないほどの痛みに襲われる。心臓の不整脈も悪化した。同行していた国際山岳医の大城和恵医師は、診察の結果、帰国して心臓手術をするしかない、と判断。
本番の登頂出発は2013年3月中旬に迫っていた。その4カ月前の2012年11月に日本に戻り心臓の手術、さらに翌年1月15日に再手術。出発まで2カ月を切っていた。

「『何としても今年登らないと』という精神状態にありました。事実、決行してよかったと思っています」(三浦さん)
登頂直前、心臓のリハビリをしながらの高度順応トレーニングの際に、三浦さんは「年寄り半日仕事作戦」というやり方を取り入れた。年寄り半日仕事、とは、昔から日本の農家などで伝わる、「半日仕事をして、残りはのんびり過ごす」という健康管理の仕方だ。
朝出発して昼までを登山にあてる。お昼をゆっくり食べて、昼寝をする。目が覚めたら1時間ほど散歩する。こうやって、焦らず、年齢に合ったペースで高度順応を16日間続けて、ベースキャンプ(標高5350メートル)に到達した。このペースにより、1日の標高移動差はだいたい500メートル以内におさまったという。これは高度順応の生理学から見ても理にかなっていて、実際に今回のトレッキングからアタックに至るまで、メンバー全員(三浦さん、次男の豪太さんら日本人隊員4人と、登山をサポートした6人のシェルパ)、高度障害がほぼ出ない状態で順調にベースキャンプに到着することができたという。
5月16日からベースキャンプを出て頂上アタック(サミットプッシュ)を開始し、6カ所のキャンプを経由し、頂上を目指した。
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