70歳、75歳、80歳! 3度のエベレスト登頂の夢は「一歩ずつの繰り返し」で達成
冒険家・三浦雄一郎さんの攻め抜く健康法(後編)
柳本操=ライター
標高8500メートルで手巻き寿司に舌鼓

登頂の最中も、食事を決しておろそかにしないのが三浦さん流だ。
三浦さんチームは、8500メートル地点で、持参したウニの瓶詰や塩辛を材料に手巻き寿司を食べたという。羊羹(ようかん)と抹茶も持って行き、氷を鍋で溶かしてお茶の時間も。「作法も知らないのに、狭いテントで膝をつきあわせて、お茶をいただきました。そして、休憩しようとぐっすり寝込んだ。しっかり食べて、爆睡したおかげで、80歳にして山頂にたどり着くことができました」(三浦さん)
2013年5月23日午前9時(日本時間午後0時15分)。三浦さんチームの登頂が達成された。
心臓手術、骨盤骨折など、通常であれば「もう、やめておこう」と判断するような出来事に見舞われながらもエベレスト登頂を果たした思いはどこにあったのか。
「いろんなことが起こりました。しかし、それは、『できない』という理由にはならないと思いました。とにかく、目標に向かって一歩ずつ、できることを繰り返す。諦めなければかないます。何歳になっても行動をすること。僕の場合はちょっとむちゃくちゃなやり方ではありましたが(笑)、そうやって行動することがアンチエイジング法となっているのだと思います」(三浦さん)
講演会場では、最高齢登頂記録を打ち立てた登頂直後に、山頂から「ありがとう。ありがとう。世界最高の気持ちです。まさか80歳でエベレスト山頂に着くとは、人生最高の幸せでした。最高に疲れました。これ以上ない。でも、80年、まだまだいける、そんな感じです」とにこやかに話す三浦さんの映像が流された。
骨折、心臓の持病を抱えながらの頂上アタック。目標に向かう悲壮感というよりは、常にユーモアを忘れず、食べることを楽しみながら冒険を繰り返す三浦さんの姿に「年齢を重ねても、こんなふうに生き生きとありたい」と思った参加者は多かったのではないだろうか。
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三浦雄一郎さんによる基調講演の後は、北里研究所病院の3人の医師――糖尿病センター長の山田悟医師、循環器内科部長の猪又孝元医師、脊椎センター長の日方智宏医師による講演が行われた。
まず、糖尿病専門医で、緩やかな糖質制限「ロカボ」の提唱者である山田医師(食・楽・健康協会代表理事)が登壇した。山田医師は、「以前は、健康になりたかったら節制しましょうというのが常識でした。しかし、ここ10年ほどの栄養学の進歩で、おいしく楽しく食べて健康になれるということがわかってきました。これがロカボです」と語りはじめ、ロカボの科学的根拠(エビデンス)、そしてメタボ対策や老化防止などに役立つことをやさしく解説した。
続いて登壇した循環器内科部長の猪又孝元医師は「隠れ心不全」について解説した。「がんと並ぶ2大死因となっている心血管病の中で最も入院患者が多いのが『心不全』です。患者は現在もどんどん増えています。重症例は病院の中で2割も命を落とされています」と心不全の現状について説明、より早く(その兆候を)見つけることが大事だと熱く語った。
では、どうすれば見つけられるのか。「健診で心不全を見つけることはとても難しいのです。今回は見つける方法を2つ紹介しましょう。1つは、血液検査でBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド:心臓から分泌されるホルモンで心不全で値が上昇する)の値を測ることです。BNPは病院に行けば普通に測定してくれます」(猪又医師)
さらに猪又医師は、医者にかかる前に「見るだけでわかる」ポイントがあると話す。それが「首の血管」、具体的には「首の皮膚が脈打つように揺れているかどうか」だという。「もしご家族の首の皮膚が揺れていたら、すぐに循環器医に見せてください」(猪又医師)
最後に、脊椎センター長の日方智宏医師が登壇、「腰痛」対策について解説した。「すべての人は人生に1度は腰痛を経験すると言われています」(日方医師)と言うように、多くの人が腰痛に悩んでいる。実際、会場に詰めかけた聴衆で、これまで腰を痛めたことのない人は3人だけだった。
日方医師は今日から実践できる、腰痛を予防するためのストレッチ&腰の筋トレを3つ紹介。これに「全身を動かす有酸素運動を組み合わせていただくと、より効果的です」(日方医師)。さらに、日常生活の中で、「寝た姿勢での読書は、腰に負担がかかるため避ける」「床に落ちている物を拾ったりするときは、腰だけを曲げずに、膝をしっかり曲げて、腰を落とす」ことを勧める。
3人の医師は、専門分野の最新動向を押さえつつも、ユーモアを交えながらやさしく解説、会場は常に笑いがあふれていた。今すぐ実践できる情報が満載で、参加者は熱心に聞き入っていた。

(写真:菊池くらげ)
プロスキーヤー、クラーク記念国際高等学校校長
