重症メタボから一転、70歳で「エベレスト登頂」を目指す
冒険家・三浦雄一郎さんの攻め抜く健康法(前編)
柳本操=ライター
当時、三浦さんは暴飲暴食の日々を送っていた。「(自宅のある)札幌はごはんがおいしくて、ジンギスカンの飲み放題、食べ放題に通っていました。運動は、散歩程度のウォーキング。体重は増える一方で、身長164cm、体重86キロ。階段を上るのもふぅふぅと息が切れる始末です」(三浦さん)
生活習慣病の疑いが濃厚なのはわかっていたが、冒険家、登山家という肩書きが邪魔をした。
「『プロスキーヤーなのに、生活習慣病だなんて恥ずかしい』と思い、検査を受けることから逃げ回っていたのです。しかし、どうにも膝が痛いので札幌から1時間離れた場所にある知人医師の病院で検査を受けました。結果は赤い数字の異常値だらけ。血圧は上が190mmHg、糖尿病、脂質異常症。腎臓の数値も悪く、今年中には人工透析が必要になるレベル。医師からは『こんなひどい数値だと、あと3年生きられたらいいほうだ』と言われたのです」(三浦さん)
重症メタボ。「このままでは余命3年」と言われ奮起

余命3年と言われるほどの重症メタボ。原因は飲み過ぎ、食べ過ぎ、運動不足にあるのは明らかだった。
「何か目標を立てて改善しなくては…と思いましたが、『ただ運動するのはつまらない』とも思いました」(三浦さん)
一方で、同じく冒険スキーヤーだった父の三浦敬三さん(享年101歳)が、当時、3度の骨折を乗り越え、99歳でモンブラン山系ヴァレブランシュ氷河からのスキー滑降、という夢を実現した。
「普通、90歳を超えてスキーをして、足の骨を3度も折ったら家族は『やめなさい』と言いますよね。でも、人間の気持ちって不思議な力を持っているもので、とうとう父は骨折を治して夢をかなえてしまった。こんなおやじがいるもんですから(笑)、『おれもまだ60代半ば、黙っていられない!』と思ったんです。おやじがモンブランなら、おれはエベレストに登ってやる! 今考えても、むちゃくちゃな目標です」(三浦さん)
エベレストを目標に定め、試しに札幌市内の自宅近くにある藻岩山(標高531メートル)を登ってみたという三浦さん。軽い運動靴を履き、ペットボトル2本を持ち、ゆっくりと登山道を登りはじめたが、5分もしないうちに息切れし、脂汗が出る。
「今日はもうダメだ」――。イスにがっくりと腰掛け、立ち上がる元気もなかった。「こんな姿を知り合いに見られたらみっともない」と野球帽を目深にかぶり、とぼとぼと登山道を引き返したという。
500メートルの山も登れないくらい体力が低下していたことを実感し、気が遠くなったという三浦さん。ところが三浦さんは気持ちを切り替える。
「僕はもともと性格的に、いい加減、無責任、楽観主義なんです。何とかなる、何とかしてみよう、と思ったんです。ただ、何とかする前にメタボを治さないといけない(笑)」(三浦さん)
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