体のコゲ・サビを落として毛細血管を増やす「食事」のルール
第2回 食材やスパイスの力でゴースト血管を解消する
田中美香=医療ジャーナリスト
老化を加速させ、糖尿病や認知症などの元となる「ゴースト血管」。毛細血管が減って血流が途絶え、体の各所で機能が損なわれると、さまざまな病気を引き起こす。ゴースト血管は加齢現象の1つだが、生活習慣次第で解消することも可能だ。今回は、ゴースト血管をなくして毛細血管を元気にする「食事」のルールを、愛媛大学医学部附属病院抗加齢・予防医療センター長の伊賀瀬道也さんに聞いていく。
毛細血管を増やす第1歩は、食生活の改善から

毛細血管が衰え、体中の臓器に栄養や酸素がうまく届かなくなる「ゴースト血管」の脅威を解説する本特集。前回はゴースト血管が起こる仕組みと、糖尿病などの生活習慣病や認知症など、さまざまな病気の背後にゴースト血管が潜むという事実を紹介した。加えて、ゴースト血管は、肌の老化など“見た目”の変化、手足の冷えなどにも深く関わっている。
ゴースト血管は特殊な病気ではなく、誰もが経験する加齢現象の1つで、早ければ40代から始まる。60~70代では若い頃に比べて4割もの毛細血管が減ってしまうという驚きの報告もある。老化や病気を遠ざけ、人生100年時代をすこやかに生きるためには、早いうちに毛細血管のゴースト化を阻止したいところだ。
老年医学や抗加齢医学の視点からゴースト血管の影響を研究する、愛媛大学医学部附属病院抗加齢・予防医療センター長の伊賀瀬道也さんは、「加齢に伴って体のあちこちの機能が衰えるように、毛細血管が老いとともに減っていくのを完全に避けることはできません。しかし、減るスピードを遅くすることはできます」と話す。
前回触れたように、毛細血管には血管を新たに作る「血管新生」という仕組みがある。「ゴースト血管は、食事や運動といった日々の生活習慣から受ける影響が大きいことが分かっています。生活習慣を見直すことで、一度ゴースト化した血管を再生することは可能です。元の状態に近づける努力をすれば、たとえ何歳になっても、戻すことは不可能ではありません」(伊賀瀬さん)
伊賀瀬さんがこう語る背景には、毛細血管の状態が生活習慣によって左右されることを実感した、自身の経験があったという。
「毛細血管が減ってゴースト化しているかどうかは、特殊なスコープを指先にかざして確認することができます(前回参照)。以前、私が実施したところ、毛細血管はきれいなループを描いて末端で折り返していました。ところが、不規則な食生活や運動不足が続いたときに試してみると、毛細血管がぼやけてはっきり見えなくなる、つまりゴースト血管になっていたのです。ちょっとした生活習慣の変化が毛細血管に現れることを痛感しました」(伊賀瀬さん)
今回は、ゴースト血管を解消する対策の1つ、「食生活」を取り上げる。食事の内容が健康を左右することは周知の事実だが、大きな血管、そして毛細血管の健康を保つうえでも極めて重要だ。

毛細血管のゴースト化を進める要因に「糖化」と「酸化」があることは前回解説した通りだ。食事面でも、この2つを防ぐ対策がまず求められる。また、この2要素とも関係するが、「血流を良くして動脈硬化を防ぐことは、太い血管の健康を保つだけでなく、毛細血管の維持にも欠かせません。血流が良くなると、毛細血管を形成する壁細胞や内皮細胞同士のつなぎ目が正常化することも分かっています」と伊賀瀬さんは話す。具体的には、血圧や悪玉(LDL)コレステロールなどを適切に保つ食生活も重要になる(p.6のコラム参照)。
そしてもう1つ、毛細血管の維持に関わるポイントがあると伊賀瀬さんは話す。前回解説したように、毛細血管の内皮細胞の間にはわずかな隙間があり、その隙間から血液の成分が適度に漏れることで、周囲の細胞に栄養分や酸素を行き渡らせている。この仕組みを支えるのが内皮細胞が持つ「タイツー(Tie2)」という受容体だ。伊賀瀬さんによると、このタイツーを活性化させる身近な食品があるという。
これら食事面での対策について、伊賀瀬さんに詳しく聞いていこう。