前立腺がんはおとなしい? 本当に手術不要? 実は怖い一面も
第3回 進行が遅いと思いきや、骨への転移も多い。前立腺がんの実態を知ろう
田中美香=医療ジャーナリスト
前立腺がんが見つかる男性が増えている。しかし、前立腺がんは「進行の遅いがん」であると同時に、進行すると骨に転移しやすく、見つけたときには大きくなっていることが多いという事実はあまり知られていない。「前立腺がんは生存率が高い、おとなしいがん」という定説と現実の間にギャップはあるのか、そして前立腺がんの検査や治療の最新事情について、東京国際大堀病院院長の大堀理さんに聞いていこう。
中高年になると急増する前立腺の病気のツートップは、前立腺肥大症と前立腺がんだ。前回はその1つ、前立腺肥大症について解説した。
前立腺肥大症は、夜中にトイレに行く回数が増えたり、オシッコのキレが悪くなるなど、排尿障害の原因となる病気だ。「たかが尿の出が悪くなるぐらい」と放置していると、「尿閉」という尿の出なくなる状態になり、膀胱がパンパンに腫れて救急車で運ばれたりする。しかも、高齢者や糖尿病のある人は、悪化するまで気づきにくく、さらに注意が必要だ。
今回は、「進行がゆっくりでおとなしい」と思われがちな前立腺がんについて、前立腺のスペシャリスト、東京国際大堀病院院長の大堀理さんに詳しく聞いていこう。
前立腺がんの生存率は高いが、罹患者は急増している
前立腺がんは進行が遅く、おとなしいがんである――。そんな話を聞いたことはないだろうか。前立腺がんは、前立腺の組織ががん化していく病気。だが、がんといっても、発見から5年後の生存率が98.6%と高く、10%に満たない膵がんと比べれば雲泥の差だ(*1)。別の原因で亡くなった人を解剖してみると、実は前立腺がんもあったと判明することも多い。それだけ、悪さをすることなく寿命を全うできる可能性が高いがんだ。

ただし、前立腺がんに新たにかかる人(罹患者)の数は、年々増加している。胃、大腸、肺と並んで4位以内にランクインし、2000年ころから顕著に右肩上がりに推移している(下図)。

前立腺がんが増えている背景には、検診を受ける人が増えたことも影響している(第1回参照)。だが、これだけ急カーブを描いて増えているのに、「検診のせいで増えているだけだ」と楽観視してもいいのだろうか。実は、驚くことに、「日本人の前立腺がんの多くは、見つかるときにはすでに大きくなっています」と大堀さんは指摘する。