「たかが頻尿」と前立腺肥大を放置してはならない3つのケース
第2回 男のシモの悩みを生む主犯、前立腺肥大症とは
田中美香=医療ジャーナリスト
夜中に頻繁にトイレに行くようになった、尿のキレが悪くてすっきりしない…そんな悩みを持つ男性が第一に疑うべきは、前立腺肥大症だ。本人が苦にならなければ治療しない場合もあるが、「たかが」と軽視するうちに悪化することがあり、そうなりやすい人には一定の傾向があるという。若いころは当たり前だった「快尿」を取り戻すことは可能なのか、東京国際大堀病院の院長、大堀理さんに詳しく聞いていく。
前回、そもそも前立腺とはどのような臓器なのか、そして、中高年から急激に増える前立腺の病気にどのようなものがあるかをお伝えした。
前立腺は、男性のみにある小さな臓器で、排尿をコントロールしたり、精液を作ったりする機能がある。その前立腺の病気のツートップが、前立腺肥大症と前立腺がんだ。いずれも加齢によるところが大きく、60代以降、急に増加する。
今回は、ツートップの1つ、中高年男性の尿トラブルの原因となる前立腺肥大症について、前立腺のスペシャリスト、東京国際大堀病院院長の大堀理さんに詳しく聞いていこう。
前立腺が肥大するのを避けて通ることは難しい

中高年の男性にとって、排尿にまつわる悩みは尽きない。若かりし日の勢いはどこへやら、排尿時の放物線は頼りないカーブを描くようになり、頻尿やチョイ漏れも気になってきた…そんな人も多いのではないだろうか。そのことを実感しやすい場所の1つが、外出先のトイレだ。隣の若者がシャーッと終わって出ていくと、「俺だけまだ出てる…?」と心配になるのも無理はない。
その最大の原因は、前立腺肥大症だ。前立腺肥大症は年を重ねるにつれて増えるという特性ゆえ、60歳前後では4万人、65歳を超えるとその10倍以上、約42万人の男性が患っている(第1回参照)。平均寿命が延びて人生100年時代を迎えた現代だからこそ、悩む人が多い病気なのだ。
それにしても、なぜ加齢とともに前立腺が大きくなってしまうのだろうか? 年をとれば、皮膚はハリを失ってシワができ、骨量や筋肉量が減って腰が曲がり、全身がしぼむように縮んでいく。しかし、前立腺に限っては、逆行するかのように大きくなっていく。大堀さんによると、その理由ははっきり解明されていないという。
「年をとると前立腺が肥大する理由は諸説あって、例えば、前立腺に影響を与える男性ホルモンの減少です。年を重ねると男性ホルモンが減っていくのに、前立腺では、男性ホルモンの感受性が高まるために大きくなるとも言われています。いっそ男性ホルモンがなくなれば肥大した前立腺は縮みますが、そうするわけにもいきません。加齢によって前立腺肥大症が増えるのは自然の流れであって、避けて通ることは難しいのです」(大堀さん)
では、前立腺が肥大すると、男性の体にはどのような変化が起き、悪化するとどうなっていくのだろうか。
前立腺肥大症の一番の症状は「夜間の頻尿」
男性の尿道は、前立腺を貫くように走っている。そのため、尿道を取り巻く前立腺が肥大すれば、尿道は圧迫されて狭くなり、尿の出が悪くなってしまう。通り道(尿道)が狭くなるから車(尿)が渋滞して、到着(排出)が遅れたり、勢いよく走れなくなったりするイメージだ(下図)。