歳をとると発症しやすい! 「老年期うつ病」という盲点
第3回 うつ病、老年期精神病、パーキンソン病…こんなにある認知症もどき
伊藤和弘=ライター
高齢者の認知機能が落ちてくると「認知症」という言葉が真っ先に頭に浮かぶ。しかし、認知症を正確に診断することは専門医でも難しいことがあり、認知症に似た症状の「別な病気」だったことは少なくない。間違われやすい病気は、「てんかん」「うつ病」「硬膜下血腫」「老年期精神病」などたくさんある。最終回となる今回は、代表的な認知症もどきである「うつ病」、そして老年期精神病などについて、認知症予防・治療の第一人者・朝田隆さんに聞いていこう。

「一度は認知症と診断されながら、実は別の病気だった」――。本特集ではこれまで、認知症に似た症状の“別な病気”について紹介してきた。認知症は進行性で一度発症したら元に戻ることはないが、認知症に似た病気の場合は、治療できる可能性がある。
認知症予防・治療の第一人者である、メモリークリニックお茶の水理事長、筑波大学名誉教授の朝田隆さんは「認知症ではないが、認知症のように見える病気や状態」を一般の人に分かりやすく「認知症もどき」(仮性認知症)と呼んでいる。

私たちは、“認知症もどき”の存在を正しく認識し、もしその可能性がある場合は専門医に相談することが大事になる。
前回も紹介したように、認知機能が低下し、認知症に近い症状が出る病気には、てんかん、うつ病、硬膜下血腫、老年期精神病、一過性全健忘、せん妄などたくさんある。前回はこの中で、認知症に間違われるケースが多い「てんかん」、そして「硬膜下血腫」などについて解説した。
最終回となる今回は、代表的な認知症もどきとして知られる「うつ病」を中心に、老年期精神病や一過性全健忘などについて朝田さんに話を聞いていく。
高齢者はストレスに弱く、うつ病を発症しやすい
うつ病というと、若い人、特に働き盛りの人が仕事のストレスなどによりかかる病気と思われがちだが、朝田さんは「高齢者にも多い病気で、認知症と間違われるケースは少なくありません」と話す。65歳以上の人がかかるうつ病は、「老年期うつ病」(老人性うつ病)と呼ばれている。
「むしろ高齢になるとストレスに対する耐性が低くなり、うつ病を発症しやすくなります」と朝田さん。ただでさえストレスに弱くなっているところに、体力の衰え、病気、離職(退職)、経済的不安など高齢者ならではの悩みが加わることで、うつ病になりやすくなるという。
厚生労働省「患者調査」によると、うつ病を含む「気分障害」(うつ病、躁うつ病など)の総患者数はおおむね増加傾向にあり(上のグラフ)、年代別に見ると、60歳代以上の患者も多いことが分かる(下のグラフ)。
うつ病の原因はセロトニンやノルアドレナリンなど脳内の神経伝達物質が減少することと考えられている。中心となるのは精神症状で、「気分が沈む」「やる気が起きない」「ものごとに対する興味や好奇心がなくなる」といった症状が起こる。さらに、眠れない、疲れやすい、頭痛、めまい、しびれ、耳鳴りなどの身体症状もあらわれる。老年期うつ病の場合、若い人に比べて身体症状(身体的な不調)が強くあらわれやすいのが特徴だ。
「うつ病になった高齢者がボーッとしている様子は認知症に似ていて、アルツハイマー型認知症、そしてレビー小体型認知症の初期症状にも似ています。病状からうつ病と認知症と見分けることは簡単ではありません」と朝田さんは話す。
うつ病だった場合、もちろん放置しておくのはよくない。高齢者ではそのまま本当に認知症に移行してしまうことも多い。「うつ病と認知症は相互に関係が深い病気です。高齢者がうつ病になると認知症を発症するリスクが2倍になるという報告もあります」と朝田さんは指摘する(*1)。