認知症かと思ったら実は「てんかん」 自分は無縁だと思っていたら大間違い
第2回 てんかんは高齢者の誰がなってもおかしくない病気だった
伊藤和弘=ライター
歳をとるにつれて発症リスクが高くなる認知症。高齢者の認知機能が落ちてくると「認知症の始まり」と思いがちだが、似て非なる“認知症もどき”のケースがあり、この場合「治療できる可能性がある」。一見同じように見えても、治療できるかできないか、この差は極めて大きい。今回は、認知症予防・治療の第一人者・朝田隆さんに、認知症に間違われやすい代表「てんかん」を中心に症状や対策を聞いていく。
認知症もどきの多くは、治療すれば治る可能性がある

今の時代、認知症は少しも珍しくない病気だ。その前段階であるMCI(軽度認知障害)も含めると、65歳以上の3人に1人が該当するという。高齢になれば誰が認知症になってもおかしくない。
このため、高齢者がボーッと放心していたり、会話がうまく成り立たなかったりすると、「ついに認知症か?」と思ってしまうのも当然だろう。
しかし、認知症予防・治療の第一人者である、メモリークリニックお茶の水理事長、筑波大学名誉教授の朝田隆さんは、「認知機能の低下があり、一見認知症のように思える症状でも、実は認知症ではない、別な病気だったというケースは少なくありません」と話す。朝田さんは、これらを「認知症もどき」(仮性認知症)と呼んでいる。
認知症は進行性で、一度発症したら確実に進行していくことが知られている。一方、認知症もどきはそうではない。認知症もどきの多くは治療法が確立されており、治療すれば治る可能性があるのだ。一見同じように見えても、治療できるかできないか、この差は極めて大きい。
もしかしたら治らない認知症ではなく、治療可能な認知症もどきかもしれない――。疑問を感じたら、専門医のセカンドオピニオンを受けるのが大事だ。
つまるところ、「認知症と似て非なる病気(認知症もどき)」の存在を知っているかどうか、そして「その可能性に気づくこと」がとても大切になる。そこで今回からは、認知症に間違われやすい病気の症状や具体的な対処法などについて、朝田さんに聞いていこう。一見、認知症と同じように見えても、注意深く観察していると「認知症とは違う」と分かることがあるという。

第1回で触れたように、認知機能が低下する病気はたくさんある(図)。これらの中で一般的に間違われるケースが多いと言われるのが「てんかん」や「うつ病」だ。朝田さんは、「ほかの病院で認知症と診断された患者が、検査の結果別な病気だったというケースで最も典型的なのが『てんかん』です」と話す。
そこで今回は、「てんかん」を中心に、朝田さんが「正しく対処すれば治りやすい認知症もどき」の1つに挙げる「硬膜下血腫」などについて聞いていこう。第3回では、認知症と間違うケースの多い「うつ病」やその他の病気について解説する。
てんかんは高齢者に多く、誰がなってもおかしくない病気
読者の皆さんは、「てんかん」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。
「子どもに起こる病気」「意識を失って全身がけいれんする病気」といったイメージが一般的だろう。最近でこそ、高齢者のてんかんが認知症と間違われるケースがあることが知られるようになってきたとはいえ、そもそも「なぜ間違われるのかすらよく分からない」という方がほとんどではないだろうか。
詳しくは後述するが、高齢者のてんかんは、上述するようなけいれんを伴わないことが多く、発作も“静か”で気づきにくいという面もある。発作が起きているときは、意識がなくなり、ボーッとしたり、その間のことは覚えていなかったりするため、認知症と間違われることがあるのだ。
また、多くの人は「てんかん」という病気の存在自体はご存じだと思うが、「自分とは縁がない病気」と思っていないだろうか。

その認識は改める必要がある。朝田さんは「てんかんの患者数は100人から200人に1人と推計されるほど非常に身近な病気です。それにもかかわらず誤解が多い病気です」と話す(*1)。
てんかんは、何歳になっても発症する可能性があり、むしろ65歳を過ぎると発症率が高くなることが分かっている。「てんかんは『誰もがなり得る病気』です。特に歳をとると脳の血管の老化などが進み、小さな脳梗塞なども起こすようになるので発症しやすくなるのです」と朝田さんは注意を促す。
全国の急性期医療機関を受診した患者7万2582人を対象にした研究で、抗てんかん薬を処方された患者の年齢を調べたところ、18歳未満のてんかんの患者はわずか17%しかおらず、逆に65歳以上の高齢者は44%と半分近くを占めていた(上のグラフ)。