「眠りたいのに眠れない!」悩み解消の鍵は、光、体温、筋弛緩にあった
第2回 最新の研究から分かった、医学的に正しい快眠法とは?
伊藤和弘=ライター
睡眠に悩む人は多い。十分な睡眠時間が取れない人がいる一方で、中高年齢層になると「眠れない」ことに悩む人が増えてくる。睡眠は誰もが気になるだけに様々な情報が飛び交っているが、その中には間違っているものも少なくない。前回は、睡眠医学のエキスパート・秋田大学大学院教授の三島和夫さんに“睡眠の新常識”を聞いた。今回は、その最新の知見に裏付けられた“医学的に正しい”快眠法を聞いていこう。

前回は、睡眠の研究がここ20年ほどの間に大きく進んだことをお伝えした。その結果、かつて正しいと思われていたのに“誤解”だったと分かったことがいくつもある。
理想の睡眠時間は人によって大きく違うし、睡眠時間は短くても深い睡眠を取れればいいというのも誤りだ(=安全な短時間睡眠法は存在しない)。睡眠のサイクルを決める「体内時計」には個人差がある。日本人の平均は24時間10分ほどだが、それより短い朝型の人もいれば、それより長い夜型の人もいる。また、私たちが眠りに入る2時間ほど前になると、メラトニンというホルモンが分泌され始め、覚醒度が下がって眠気を感じる。続いて体内の熱が手足から放出され脳の温度(深部体温)が低くなる。このときの深部体温の下がり方が、寝つきをよくするためのポイントになる。
これらの科学的事実を把握した上で、今回と次回では、睡眠医学のエキスパート・秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座教授の三島和夫さんに、「いい睡眠」を実現する方法を聞いていこう。今回は主に働き盛り世代などを対象にした「なかなか寝つけない悩み」への対処法を、次回は高齢になると増えてくる「中途覚醒」や「早朝覚醒」などへの対処法を紹介していく。
体内時計のズレが不眠の原因の1つ! 日本人の約3割は夜型
睡眠の悩みはいろいろあるが、中でも最も多いのは「眠りたいのに眠れない(寝つきが悪い=入眠困難)」ことだろう。疲れているので早めにベッドに入るのに、いつまでも眠れない。さらに「眠らなければ!」とあせると、ますます眠れなくなってしまうという悪循環に入ってしまうこともある(*1)。
寝つきをよくするための対処法には、寝る前のストレッチ、マッサージ、入浴、運動などから、「羊が1匹、羊が2匹…」などとつぶやく古典的な民間療法まで様々ある。まずは何に着目すべきなのだろうか。
対策はいくつかあるが、三島さんがまず最初に指摘するのが、「体内時計の夜型が強いことが原因で、寝つきが悪い人が一定数いる」ということ。「働き盛り世代の⼊眠困難は、体内時計の『夜型』が強いことで生じている場合も少なくありません」と三島さんは話す。この夜型の人を朝型にシフトさせることが、第1の対策となる。
第1回で解説したように、私たちが毎日ほぼ一定の時間に眠くなり、一定の時間に目が覚めるのは「体内時計」があるためだ。体内時計の周期の長さには個人差がある。日本人の平均は24時間10分程度。周期が24時間より⻑くなるほど、毎⽇眠くなる時刻が後ろにずれる幅が⼤きくなり、強い夜型になってしまう。国立精神・神経医療研究センターが一般成人1170人を対象に行った調査結果では、約3割の人が夜型に分類されている(下のグラフ)。

「平日はなかなか寝つけなくても、週末にいつもよりベッドに入る時間が遅くなればすぐに眠れるというのは夜型の特徴です。つまり、体内時計が遅れているから、もう少し後の時間に寝ようとすれば寝つけるのに、早い時間(体内時計では覚醒している時間)に寝ようとするから眠れないわけです。それなのに不眠症と診断されて、睡眠薬を飲んでいる人がたくさんいます。このように夜型が強くて入眠困難になっている人は睡眠薬を飲んでも効きません」(三島さん)
自分が朝型・夜型なのか、そして睡眠障害の有無などは、三島さんたちが作った「睡眠医療プラットフォーム」というサイトで簡単にセルフチェックできる。気になる人は一度チェックしてほしい。