医師も驚く「長友選手の驚異の回復」を支えた新食事法の威力
『長友佑都のファットアダプト食事法』の監修者・山田悟医師、長友選手専属シェフ・加藤超也さんに聞く(後編)
柳本操=ライター
「今、プロ生活12年間の中で一番良いコンディションを維持している」と語るのはサッカー日本代表として3度のW杯に出場した長友佑都選手。筋肉系のケガが多かった2年前から食事法を一新、昨年は肺気胸による入院を医師も驚く回復力で乗り越えた。
長友選手が今、実践している食事法が「ファットアダプト」。食事法の監修者である北里研究所病院 糖尿病センター長の山田悟医師と、長友選手の専属シェフ・加藤超也さんに話を聞いていく。後半となる今回は、昨年秋の長友選手の入院からの回復の経緯や、ファットアダプト食事法の医学的根拠について詳しく聞いていく。

2016年から加藤シェフのもと、本格的な食事改善をスタートした長友佑都選手。試行錯誤する中、1年後からは山田医師も加わり、「摂取する糖質を一定量に抑えて、たんぱく質と脂質は積極的にとる」というファットアダプト食事法に切り替えた。その結果、長友選手は筋肉量が増え、持久力も高まり、着々とパフォーマンスを高めていた。そんな矢先、突如、ハプニングが長友選手を襲う。
昨年10月、長友選手は、ドイツのシャルケとの対戦の際にボールが胸を強打し、肺気胸と診断された。肺気胸とは、胸に小さな穴が開き、空気が漏れ出してしまう病気。長友選手の場合、ボールに強打された左の肺がパンクしたようになり、穴が開いて、空気が入らない状態になっていた。このため、左側だけ肺が小さくなっていたという。全身麻酔による内視鏡手術により、穴が開いた肺の部分の切除が行われた。
新著『長友佑都のファットアダプト食事法』(幻冬舎)の中では、内視鏡のオペ後の2週間の入院中、管につながれ激痛に耐えていた状況が描かれている。長友選手は「それまでの32年間の人生で、もっとも辛く苦しい体験だった」と語っている。
「全治2カ月半」という診断よりも1カ月半早く回復
試合中にボールが胸に当たったことによって肺気胸と診断されたのが昨年の10月。翌2019年の1月には、AFCアジアカップが迫っているというタイミングだったのですね。
加藤シェフ そうなのです。面会謝絶が解除された後にすぐにお見舞いに行ったのですが、長友選手は体力を消耗し体重も落ちていて、アスリートにとって何よりも大切な筋肉が落ちていることを危惧しました。「この状況だとアジアカップは無理だ。諦める」と本人も弱気になっていました。
通常、病気からの回復期には、おかゆやうどんなど消化のよい糖質の摂取が望ましいとされます。食事をどうしたらいいのか迷いました。そこですぐに私は山田先生に、「早期回復のために何を食事で摂取すればいいですか?」と連絡をしました。すると、山田先生からは早速こんなお返事をいただきました。
「何も変えなくていいです。ファットアダプトの方法で、今まで通り、脂質とたんぱく質をしっかりととってください。なぜなら、肺を作っているのは、筋肉と同じようにたんぱく質だからです。そして、傷ついた細胞の修復には、細胞膜を作っている脂質の摂取が欠かせません。ですから、良質なたんぱく質と脂質を中心とするファットアダプトの継続が、回復への近道になります。その一方で、控えなければならないのは糖質です。糖質過多による高血糖は、傷の修復を遅らせる要因となります。糖尿病も治らない傷によって発覚するぐらいだからです」
的確なアドバイスをいただき、自信を持つことができました。そこで、ファットアダプトのレシピで作ったスープを毎日、病院に届けました。退院後も、リハビリをしながら青魚など魚を中心とした高たんぱく質、高脂質の食事を作り続けました。
退院後、長友選手は1週間ごとに検査のために病院に通いましたが、そのたびに検査の数値も病状もめきめきと良くなりました。
「諦める」と本人は言っていましたが、結果としては、手術から1カ月後に実戦復帰を果たし、最初から最後まで90分間戦い抜き、チームメイトも驚くほどの無尽蔵のスタミナを発揮しました。アジアカップにも出場できました。「全治には2カ月半かかる」と言っていた担当医師も、予測より1カ月半も早い回復に、「何をしたらこうなるんだ!」と心底驚いていましたね。