「胃もたれ」「胃痛」の2人に1人は、機能性ディスペプシア
第2回 検査で異常が見つからない「みぞおちの症状」への対処法
田中美香=医療ジャーナリスト
胃もたれや胃痛など、みぞおちの症状があって検査を受けたものの、内視鏡では胃の粘膜に異常が見られない。そんな病気は、「機能性ディスペプシア」と呼ばれている。今回はつらい「胃もたれ」「胃痛」を引き起こす機能性ディスペプシアがどのようにして起こるのか、その仕組みをじっくり解説する。原因を詳しく知れば、薬局で薬を選ぶ目も変わってくるはずだ。
胃もたれや胃痛で受診する人の半数は「機能性ディスペプシア」

胃痛や胃もたれなど、みぞおち周辺の不調があって医療機関へ行き、内視鏡などの検査を受けたのに、「胃の粘膜に異常はありません。ストレスかもしれませんね」と言われた――。そんな経験がある人もいるのではないだろうか。こうしたケースは、かつて慢性胃炎、神経性胃炎という診断がつくことが多かった。だが、その多くは今、「機能性ディスペプシア」(Functional Dyspepsia:FD)と呼ばれている。
機能性ディスペプシアは、「症状の原因となる器質的、全身性、代謝性疾患がないのにもかかわらず、慢性的に心窩部痛(みぞおちの痛み)や胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患」と定義される(*1)。分かりやすく言い換えると、胃粘膜のただれや萎縮など目に見える異常はないが、胃もたれや胃痛などの症状が表れる、慢性的な胃の病気を指す。
第1回で解説したように、加齢とともに胃の運動機能は衰え、胃の内容物を十二指腸に押し出す筋肉の力が弱ってくる。その結果として起きてくる病気が、胃痛や胃もたれなどの「機能性ディスペプシア」だ。
機能性ディスペプシアと聞いてもピンとこない、耳慣れない病名だと思う人は少なくないだろう。この病名が現れたのは2013年のこと。なぜこんな名称になったのだろうか。国立国際医療研究センター消化器内科診療科長の秋山純一さんはこう話す。
「機能性ディスペプシアは昔、胃下垂と呼ばれた時期がありました。胃の不調のある人がバリウム検査を受けたとき、バリウムの重みで胃が下がった状態で映るからです。胃が下がるのは胃の動きが悪いせいだろう、これを胃下垂と呼ぼうということになり、さらに、その後は何でもひっくるめて慢性胃炎とも呼ばれました。その後、ピロリ菌の存在が明らかになり、ピロリ菌に感染して粘膜が炎症を起こすのが慢性胃炎だと考えられるようになりました。それに伴い、『胃粘膜の炎症がなく、胃痛や胃もたれなど、みぞおち周辺の症状があれば機能性ディスペプシアだ』と区別されるようになったのです」
機能性ディスペプシアは、みぞおちより上、上腹部の不調を訴えて医療機関を受診した人のうち、約半数もの人が該当するという。健康診断を受けた人を見ても、1割以上、つまり10人に1人以上が該当する(*2)。なじみの薄い病名の割に、実は非常にありふれた病気なのだ。