胃の病気の主役は、加齢が招く「胃もたれ」「胸やけ」へ
第1回 減る胃がん・胃潰瘍、増える機能性ディスペプシア・逆流性食道炎
田中美香=医療ジャーナリスト
冷たいものをガブ飲みしたり、スタミナ料理に走ったりと、胃に負担がかかりがちな夏は、加齢により胃の機能が衰えた中高年にとって、さまざまな不調を招く季節だ。ピロリ菌の除菌が進んで胃がんや胃潰瘍が減ってきた今、胃の病気の主役は「機能性ディスペプシア」と「逆流性食道炎」の2つに移行しつつある。本特集では、国立国際医療研究センター消化器内科診療科長の秋山純一さんに、現代人の「胃の不調」の正体と、その対処法を聞いていく。
「胃の病気といえば、胃がん、胃潰瘍」ではなくなりつつある
今年もまた、暑い夏がやってきた。夏バテ対策と称し、こってりしたスタミナ料理をたくさん食べる人や、激辛料理に走る人もいるのではないだろうか。冷たい飲み物をつい飲み過ぎてしまう人も多いだろう。
ただし、それは「胃」が元気な状態でこそ可能な話。胃の不調を感じている人がそんな食生活を送れば、胃には大きな負担がかかってしまう。そもそも、胃の調子が悪ければ、そんな食生活を続けることは難しいだろう。
「胃がきちんと動いて、胃酸もしっかり出ていれば、脂っこいものや辛いものを食べても、それほど胃がダメージを受けることはありません。でも、胃の調子が良くない人の場合、そのような食生活はさまざまな不調のもとになります」。そう語るのは、国立国際医療研究センター消化器内科診療科長の秋山純一さん。胃や腸など、消化器の機能異常に詳しい消化器内科のエキスパートだ。
夏は、寝苦しさから睡眠不足になりやすい季節でもある。秋山さんによると、睡眠不足で生活リズムが崩れると自律神経のバランスも乱れ、胃に影響が出ることがあるという。
「胃の動きは、自律神経によって支配されていて、胃を動かしたり胃酸を出したりする機能には副交感神経が関与しています(*1)。睡眠不足が続けば自律神経に変調をきたすので、胃酸が強く出すぎたり、胃の動きが悪くなったりと、胃の不調を起こすこともあります」(秋山さん)
さらに、中高年以上の人にとっては、「加齢」という問題も重くのしかかってくる。「年を重ねるにつれて、胃を動かす働きは低下せざるを得ません。そのため、加齢によって起こり得る胃の病気もあります」と秋山さん。

「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓や膵臓(すいぞう)とは異なり、比較的、胃の症状は自覚しやすい。胃は、異変が起こればSOSを発信することの多い臓器だ。だが、私たちは1日3回、食事のたびに胃の世話になっていながら、よほどの異常でもない限り、胃について考えることもいたわる機会も少ない。
そこで本特集では、すべての人に起こり得る、「胃の不調」を取り上げる。胃の病の代表といえば、かつては胃がん、胃潰瘍だったが、ヘリコバクター・ピロリ(以下、ピロリ菌)の除菌が進み、ピロリ菌に感染していない世代も増える中、胃の病気の主役は「機能性ディスペプシア」と「逆流性食道炎」の2つに移りつつあるという。なぜ胃がもたれたり、痛んだり、胸やけを起こしたりするのか。その多彩な症状の正体について秋山さんに聞いていこう。
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