老化の主犯! 飽食の日本人を襲う「糖化ストレス」の脅威
第1回 動脈硬化、糖尿病、認知症――さまざまな病気のリスクを高める「糖化」
柳本操=ライター
近年、老化の主犯の1つとして、よく話題に上る「糖化」。肌などの見た目の老化はもちろん、体内の血管や内臓、骨、関節などの機能低下にも密接に関わっているという。糖化リスクを遠ざけ、“老けない”体作りのためには何を実践すればいいのだろうか。本特集では、糖化ストレス研究センターという専門機関を有する同志社大学の糖化の専門家・八木雅之さんに、糖化のメカニズムから最新の対策までを聞いていく。

人間、歳をとれば、筋力や運動能力は徐々に減退し、骨や臓器などが徐々に衰えていく。肌にも皺(シワ)が増え、弾力性がなくなってくる――。
こうした老化による衰えは抗いがたいものだが、できればこの衰えを少しでも緩やかにしたい、というのは多くの人の願うことだろう。特に、最近では「人生100年時代」と盛んに言われるように、人生の後半戦が長くなっている。この期間をできるだけ衰えを少なく、元気に過ごしたいものだ。
人生も半ばを過ぎると、見た目はもちろん、筋力や体力などにも個人差が出てくる。例えば、同じ50歳、あるいは60歳前後の人でも、10歳くらい若く見える人もいれば、逆の場合も。なぜ、同じように歳を重ねてきたのに、若く見える人と、老けて見える人がいるのだろうか。もちろん、問題は見た目だけではない。筋肉、骨、臓器、血管など体の内面も同様だ。
老化の原因の1つとしてクローズアップされる「糖化」
老化を進める要因として、近年、「酸化」と並んで大きく取り上げられるようになったのが「糖化」だ。
この糖化、「体が焦(こ)げる」などと言われ、「糖化が進むとAGEs(詳しくは後述)という物質が体に蓄積して老化を進める」などという話が、テレビや雑誌などでもよく取り上げられるようになったので、お聞きになった読者も多いだろう。
同志社大学 生命医科学部 糖化ストレス研究センター チェア・プロフェッサー教授の八木雅之さんはこう話す。
「近年の研究から、糖化は酸化と並んで、人間の老化を進める主因の1つであることが分かってきました。糖化とは、体内の糖とたんぱく質が結びつき、たんぱく質が劣化する現象です(詳しくは後述)。糖化反応によりAGEsと呼ばれる物質が蓄積し、体内の組織の劣化や機能低下をもたらします。この糖化は、肌の見た目はもちろん、体内の血管や内臓、骨、関節などの機能も低下させるため、さまざまな病気の原因になります。さらには、認知症との関係も指摘されています」(八木さん)

八木さんは、十数年前から「糖化ストレス」に着目し、糖化のメカニズムの解明や糖化を抑える食事法、生活習慣など、さまざまな角度から研究を行ってきた糖化のプロフェッショナルだ。『老けない人の食習慣』(辰巳出版)の監修なども手がける。
糖化の原因となる糖質は、私たちが生きていく上で欠かすことができない栄養素だが、過剰に摂取すると全身の組織を老化させる「糖化」の原因となる。糖化は、くすみや肌のたるみといった「美容」面で注目されることが多かったが、最新研究によって、糖尿病や認知症、骨の老化といった加齢に伴う病気のリスクとも深く関わることが明らかになってきている。
八木さんは、現代は糖化ストレス対策の重要性が増していると話す。「老化をもたらす要因として『酸化』の影響も広く知られています。もちろん酸化に対する対策も重要ですが、古くから知られている脅威なだけに、その対策についても研究が進んでいます。例えば、ビタミンC、Eや各種ポリフェノールといった抗酸化物質をとるといった対策です。その一方で、糖化という脅威に私たちが常にさらされるようになったのは、飽食の時代となったここ数十年のことです」(八木さん)
「私たちの体は、過剰にエネルギーを得ることへの防衛力が脆弱であるにもかかわらず、ここ数十年で飽食の時代がやってきました。その結果、糖質や脂質、そしてアルコールを過剰にとり過ぎる弊害として体に起こっているのが、糖化によるダメージ、つまり、糖化ストレスなのです」(八木さん)
もちろん、加齢とともに糖化が進行し、体内の機能低下などが進むのはある程度仕方のないこととも言える。しかし、八木さんは「糖化が進みにくい食生活などを実践することにより、その進行を遅くすることは可能です」と話す。そこで本特集では、八木さんに糖化のメカニズムとそのリスク、糖化を防ぐ手立てについて聞いていこう。
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