結局、卵はどれだけ食べていいのか…誤解多きコレステロール
第1回 コレステロールはいくらとってもいい、この説には誤解があった
田中美香=医療ジャーナリスト
健康診断で多くの人が気にするコレステロールには多くの「誤解」がある。かつて、卵などコレステロールを多く含む食品のとり過ぎは避けるべきと言われてきたが、最近では「いくら食べてもよくなったらしい」という話を耳にする。どちらが本当なのだろうか。中性脂肪と“いっしょくた”に扱われることも多いが、役割も機能も大きく異なることをご存じだろうか。
コレステロールの常識は今、大きく変わろうとしている。今回の特集では、コレステロールの最新事情と対策を帝京大学名誉教授の寺本民生さんに聞いていく。
痛くもかゆくもないが、放置すれば動脈硬化が確実に進む

血管を若く維持し、狭心症・心筋梗塞や脳梗塞を防ぐために注意したい指標といえば、血圧、血糖値、そしてコレステロールに代表される脂質だろう。
脂質の中でも多くの人が気にするコレステロールは、“体に悪いから摂取しないほうがいい”という悪者のイメージがある。テレビの健康番組や各種メディアで、「コレステロール対策」が取り上げられる機会も多い。読者の中にも、健康診断で「コレステロールが高い」と指摘されている人は多いはずだ。
コレステロールをはじめとする血液中の脂質バランスが崩れるのが「脂質異常症」だ。現在、脂質異常症で治療を受ける人は約220万人以上(*1)。だが、「境界領域の人を含むと、10倍の2200万人にも膨れ上がると推計されています。しかし、これほど多くの人が該当するにもかかわらず、脂質異常症を自覚している人はわずか3割程度です」と帝京大学名誉教授の寺本民生さんは指摘する。寺本さんは、『脂質異常症がよくわかる本』(講談社)、『脂質異常症 診療ガイド Q&A』(南山堂)などの著書も数多く手掛ける、コレステロールをはじめとした脂質対策の専門家だ。
コレステロール値が基準を超えて脂質異常症と判断されるレベルになっても、自覚症状はない。痛くもかゆくもないから放置しがちだが、その間に動脈硬化は確実に進み、心臓や血管の病気を引き起こす。心臓に栄養を送る動脈が狭まったり詰まったりすれば「狭心症」や「心筋梗塞」に、そして脳の動脈が詰まれば「脳梗塞」を引き起こし、突然死に至ることもある。このため、脂質異常症は高血圧と同様に、サイレントキラーと呼ばれるのだ。
コレステロール値を適正に保つことは、血管の健康を維持し、こうした病気のリスクを高めないための重要な条件。だが、このコレステロール、かなり “やっかい”だ。分かりにくいことが多いうえに、誤解もたくさんある。
「コレステロールについて、誤解を招く情報が氾濫しています。厚生労働省や学会などによる指針が改訂された際、一部だけを切り取った情報が出回り、誤った解釈を生んでいるのです」(寺本さん)
コレステロールにまつわる誤解はこんなにある
コレステロールにまつわる誤解とは何だろうか。
その1つが、卵に代表される、コレステロールを多く含む食品の摂取についてだ。コレステロールというと、とり過ぎは避けるべき、という印象が強い。以前は、コレステロールのとり過ぎは良くない、卵は1日1個まで、という話をよく耳にしたものだ。
ところが、数年前から、これは古くて間違った説だと言われるようになった。「えっ、知らないの? 食事から摂取するコレステロールは気にしなくてよくなったんだよ」という具合に。これは本当なのだろうか。
こうした話が広まった背景には、厚生労働省が5年ごとに発表する「日本人の食事摂取基準」が絡んでいる。2010年版では、コレステロールの摂取基準(上限値)が設定されていたのに、2015年版ではこれがなくなったのだ。詳しくは後述するが、上限値が撤廃されたのにはもちろん理由がある。ただし、「上限値がなくなったとはいえ、誰もが卵をいくらでも食べていいわけではありません」と寺本さんは指摘する。
また、コレステロールは中性脂肪などと同じアブラ(脂質)の一種だから、「運動などで燃焼させれば減る」と思っている人はいないだろうか。これも誤解だ。詳しくは後述するが、コレステロールはエネルギーにはならないので、運動しても燃焼されることはない。そして、「悪者扱い」されがちなコレステロールだが、細胞膜などを構成する、体に欠かせない重要な成分でもあることをご存じだろうか。