大人の賢い防御法で「一見、いい人」の干渉から身を守る
『「一見、いい人」が一番ヤバイ』の著者・下園壮太さんに聞く(第3回)
柳本操=ライター
「いい人なのだけど、なぜか疲れる」、こんな「一見、いい人」はあなたの周りにいないだろうか。人当たりが良く欠点も見当たらないため、自分の感情を周りに共感してもらえず、自分が消耗してしまう――。こんな対人ストレスのメカニズムを著書『「一見、いい人」が一番ヤバイ』で解き明かしたのが、自衛隊で心理教官を務め、退官後は一般の人を対象に心理カウンセラーとして活動する下園壮太さん。
最終回となる今回は、一筋縄ではいかない人間関係をどう受け止め、どう対処すればいいのか、下園さんに聞いた。

編集部 第1回では、「一見、いい人」に悩む人のメカニズムを、そして、第2回では、「一見、いい人」に悩んでいる人は、その人からなぜ逃げられないのか、そしてどんな人が「一見、いい人」に悩むのかを下園さんにお聞きしました。最終回となる今回は、「一見、いい人」に悩んでいる人は、人間関係をどう受け止め、どう対処すればいいかをお聞きしたいと思います。
下園さんの著書の中で、「一見、いい人」に悩み続ける人の心には、「消耗苦」「警戒苦」「自己嫌悪苦」の3つの感情が湧き上がり、やがて疲れ切った人はうつ症状になることもある、と書かれていました。なかでも、「自己嫌悪苦」、つまり「自分を責める気持ち」は、うつ状態のときに特徴的に出てくる感情であり、カウンセラーにとって扱いの難しい感情ランキングの第1位だと。自責感情は、特に慎重に取り扱うべき感情なのですね。
下園さん そうなんです。自分を責める気持ちは、とてもデリケート、かつ“頑な”です。心にアプローチをするときに重要なのは、「直接、傷に触らない」ことなのです。ところが、通常、人は誰かが「つらい」と訴えていると、なんとかしようとして、直接その傷に触ろうとします。「こうすればいいんじゃない?」「考えすぎじゃない?」「思い出してごらんよ、今までだってこうだったじゃない」というふうに。
でも、今、問題そのものを考えようとしても、過去を思い出しても、当人にはネガティブな側面しか見えてこないのです。だから苦しんでいるのです。私が基本としているやり方は「傷は最後に触りましょう」です。
編集部 なるほど、傷に触れるのは最後、なのですね。では、下園さんは悩んでいる人に、どんなふうにアプローチされるのですか。

下園さん 苦しい対象の人物がそばにいる限り、怒りや不安の感情は立ち上がりやすい。だから、まず「離れてください」。疲れがたまっているかもしれないから「寝てください」。そして、エネルギーを回復するために「食べてください」。優先順位としては、「離れる」「寝る」「食べる」です。
今までは、ずっと理性で考えて「頑張らなければ」と踏ん張ってきた。しかし、気持ちがネガティブになっていると、いくら理性で前を向こうとしても、必ずブレーキがかかるのです。心は、すごい力を水面下に秘めています。すごい引き潮の中にいるのに、気づかずに浜辺に向かって泳ごうとしている状況にあるのが、その人です。一生懸命泳いでいるのに、どんどん後退していく。
だから、「離れる」「寝る」「食べる」によって、心の傷から距離をとる。「フラットに、潮目をもう一回見てみましょう」、「問題を見るのは、元気になってからですよ」とお話しします。
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