「一見、いい人」への悩みは重症化しやすい
『「一見、いい人」が一番ヤバイ』の著者・下園壮太さんに聞く(第1回)
柳本操=ライター
「いい人なのだけど、なぜか疲れる、イライラする」――。こんな「一見、いい人」は、あなたの周りにいないだろうか。人当たりが良く、取り立てて欠点も見当たらない「いい人」だけに、あなたが抱いている負の感情を周りに共感してもらえず、自分が消耗してしまう。こんな対人ストレスのメカニズムを著書『「一見、いい人」が一番ヤバイ』で解き明かしたのが、自衛隊で長く「心理教官」を務め、退官後は一般の人を対象に心理カウンセラーとして活動する下園壮太さん。一筋縄ではいかない人間関係をどう受け止め、対処すればいいのか、下園さんに聞いた。

編集部 下園さんが3月に出された著書『「一見、いい人」が一番ヤバイ』(PHP研究所)を拝読しました。
「付き合っているぶんには感じが良くて、仕事は任せてくれる“いい人”だけど、何かトラブルが起こると責任を逃れようとする上司」、「志は立派だけど、過去の自分の経験から過剰な頑張りを部下に要求する上司」、「聞き上手で悩みの相談に乗ってくれるけれど、周囲に言いふらしかねない先輩」、「一見親切でやたらとモノをくれるけれど本音が怖い友人」――。
身近な環境を見回せば、きっと誰もが思い当たるようなケースがたくさんありました。こういった「一見、いい人」にイライラしたり気疲れしていることが、思いのほか自分を消耗させている、という意識を私は持っていなかったので、とても新鮮でした。いわば、目に見えない「隠れパワハラ」のような状態があるのか、と。
下園さんは、長年、陸上自衛隊で「心理教官」を務めてこられ、現在も心理カウンセラーとして多くのクライアントに接しておられます。今回、著書のタイトルにもある「一見、いい人」という人物像をテーマにされようとしたきっかけはどこにあったのですか?
下園さん 実は、編集者から「このテーマで執筆していただけないか」という提案をいただいたのです。「一見、いい人」というフレーズを聞いたとき、最初私は、カウンセリングでよく出会う「いい人ほどいろいろな気遣いをし、社会の中で消耗していく」というテーマだと思いました。
しかし、具体的に編集者の話を聞いていくと、それだけではないようなのです。「見るからに悪い人と違い、『一見、いい人』との付き合いが難しい」というのです。第一印象が良くても、次第に嫌な面が見えてくる。しかし、相手が「一見、いい人」だから責めにくく、ほかの人にも「あの人が苦手」という気持ちに共感を得られにくい。そして、疲れたりイライラしたりする自分のほうがおかしいのかな、と悩んでしまう。そういった悩みを持つ人が多いように感じるので、このテーマを掘り下げてほしい、というオーダーをいただいたのです。
編集部 なるほど、普通の人間関係よりも、ひねりがある捉え方ですね。しかし、分かります。「最初はいい人だ」と思っても、付き合っているうちに、困ったところ、苦手なところが見えてくる。けど、人当たりも柔らかく、周りともうまくやっているから、共感が得られず、モヤっとする。確かにありますね。

下園さん そうなんです。実際に周囲にも聞いてみたところ、「いる、いる」「困るよね」というリアクションが多かったのです。カウンセリング現場を振り返ってみても思い当たることが多い。
そこで、改めて私が日々接しているクライアント像を捉え直してみました。確かに、最初に連想した「いい人で周囲に配慮しすぎて消耗し、うつ状態になる」という人は多いのです。これを「パターン1」とします。
その一方で、「優秀で業績もあげているような人のそばにいて、苦しんでいる。こちらが『苦しいのなら、あなたがその人から離れる、という方法もあるのでは』と提案してもなかなか離れられず、うつ状態になる」という人もけっこういることに気づきました。これを「パターン2」としましょう。
パターン1はいわば王道。対処法についても、これまでの著書でたくさん発信してきました。しかし、パターン2の人には「現代の病理」が色濃く映し出されているし、本人にとって分かりにくいぶん、重症化しやすいという特徴があるのです。