たんぱく質だけでは不十分! 筋トレも実践してこそ筋肉は保たれる
第3回 「食事」と「運動」を両輪で回してこそ筋肉維持が可能に
柳本 操=ライター
歳を重ねても、丈夫な足腰を維持して、健康寿命を延ばしたい――。それを実現するための食事のポイントを紹介してきた本特集。カギを握るのが、「たんぱく質」と各種ビタミンを摂取できる「食事の多様性」だった。高齢者のフレイル(虚弱)や糖尿病対策に詳しい東京都健康長寿医療センター副院長・内科総括部長の荒木厚さんは「食事の改善と併せて実践してほしいことがある」と話す。私たちがやるべきことを荒木さんに聞いていこう。
「食事」と「運動」を両輪で回してこそ筋肉維持が可能に

本特集では、第1回、第2回と、「シニア期に入ったらたんぱく質を積極的にとることが大事」なことを紹介してきた。これが筋力を維持し、老化を遅らせ、健康寿命を延ばすことにつながることが、国内外の最新研究から明らかになっている。私たちは、中年期から高齢になるにしたがって食事内容を変えていくことが求められている。
しかし、食事を変えただけで、「これで大丈夫」と安心するのは早計だ。
高齢者のフレイル(虚弱)や糖尿病対策に詳しく、『60歳からの筋活ごはん』(女子栄養大学出版部)などの執筆・監修を手掛ける東京都健康長寿医療センター副院長・内科総括部長の荒木厚さんは、「たんぱく質をしっかり摂取したとしても、それだけで筋肉がつくわけではありません。食事と運動は両輪。運動を実践することで初めて、確実に筋肉を維持していくことができるのです」と話す。
そこで今回は、食事と両輪で回していくべき「本当に効果的な運動」とは何かを荒木さんに聞いていこう。
フレイルの悪循環に入らないようにするには
筋肉の維持に「たんぱく質が重要」なことは繰り返し紹介してきたが、ここで忘れてはいけないのが、「たんぱく質をとっただけでは筋肉は増えない」ということ。
運動による刺激がなければ筋肉は増えない。よく知られているように、筋トレなどで刺激を受け、筋線維が傷つき、それを修復する過程でたんぱく質が筋肉へと合成され、筋線維が太くなっていく。実際、焼肉やステーキをたっぷり食べても、何もしなければ、筋肉が増えないだけでなく、太る原因になるということは、多くの人が身をもって経験しているだろう。
もう1つ認識していただきたいのが、「フレイルの負のスパイラル(悪循環)」を避けるためにも運動は大切だということ。(※フレイルは、健康な状態と要介護状態の間の、いわば要介護予備軍の状態)
加齢とともに活動量が減っていくと、食欲がわかなくなるケースは珍しくない。食事の量が自然と減り「低栄養」になると、たんぱく質などが不足するために筋肉が合成されず、筋肉量が低下するリスクが高まる。
筋肉量が低下してしまうと、何か活動しようとしてもこれまでより時間がかかる上に、疲れやすくなる。だから、外出する意欲がわかなくなり、引きこもりがちに…。こうして活動量がさらに減ると、ますますお腹がすかなくなり、食事の量が減り低栄養が加速、さらに筋肉が衰えていく…という「悪循環」に陥りやすくなる。
つまるところ、体を動かさないでいると、お腹がすかないから食欲もわかず、低栄養につながる可能性があるということだ。そして、このネガティブ・スパイラルから脱するカギとなるのが運動だと荒木さんは話す。
「リタイア後などに家でじっとしていると食欲はわかないものです。それをきっかけにフレイルの悪循環に入ってしまうリスクがあるわけですが、それを避けるための重要なポイントが『閉じこもらずに外に出ること』『運動すること』です。運動の実践が栄養ある食事につながり、好循環へとつながっていくのです」(荒木さん)
確かに体を動かせば、お腹がすく。そこでたんぱく質などの栄養をしっかりとれば、筋肉量も筋力も維持することができる。筋肉が増えれば、疲れにくくなり活動的になる…という好循環を巡らせる「スイッチ」となりうるのが運動というわけだ。