人生後半、食事内容をギアチェンジするタイミングがやってくる
第1回 老化を防ぎ、健康寿命を延ばすカギは「たんぱく質」だった
柳本 操=ライター
どんな食事を心がければ、老化を防ぎ、健康寿命を延ばせるのだろうか――。
今、「シニアの食事の常識」が変わりつつある。「加齢にしたがって食事内容をギアチェンジする必要がある」ことが最新研究によって分かってきたのだ。カギを握るのが「たんぱく質」。本特集は、高齢者のフレイル(虚弱)や糖尿病対策に詳しい東京都健康長寿医療センター副院長・内科総括部長の荒木厚さんに、寝たきりを避け、健康寿命を延ばすための食事のとり方のポイントを聞いていく。
最新研究から、シニアの食事の“常識”が変わってきた

老化を防ぎ、健康長寿を実現することは誰もが共通に願うことだろう。
日本人の寿命は延び続けているが、大事なのは「長さ」だけでなくその「中身」。寝たきりの期間を短くして、介護されることなく自分の足で歩ける期間(=健康長寿)をできるだけ長くキープする、これが理想だろう。そのためには何をすればいいのだろうか――。人生も後半戦に入り、シニアの年代が近づいてくると、現実味を帯びるテーマだ。
人の体は、歳とともにさまざまな器官が衰える。「老化を防ぐ」と一口に言っても、その対象は脳はもちろん、内臓、皮膚、骨、目、耳、髪など多岐にわたるが、寝たきりを避けるのを目標に据えるなら、自分で立ち、歩く力を支えるために重要となる「筋肉の維持」が大きなポイントになる。
筋肉の維持というと、運動を実践して足腰が衰えないようにすることが大事なのは言うまでもないが、同時に体を構成する栄養を得る「食事」が重要になる。では、それを実現するために「求められる食事」とは何か。
健康にいい食事、というと、「食べ過ぎは厳禁」「いろいろな食材をバランスよく」というのが一般的な認識だろう。実際、職場の健康診断では、メタボのチェックは必須で、内臓脂肪の蓄積による悪影響を減らすため、食べ過ぎ、特に脂っこい肉の食べ過ぎは控えるのが健康的というのが、いわば“常識”となっている。
また、人生も後半戦に入ると、若い頃より活動量も減ってくる。「そんなに食べる必要はない。野菜中心のあっさりしたおかずで、量も控えめで十分だろう」と考えがちだ。
だが、この常識が最近の研究により変わってきた。高齢者のフレイル(虚弱)や糖尿病対策に詳しい東京都健康長寿医療センター副院長・内科総括部長の荒木厚さんは、「最近の研究によって、シニア期の食事に対する考え方が大きく変わってきました。健康長寿を実現するには、加齢にしたがって食事の内容を正しくギアチェンジする必要があるのです」と話す。そのカギを握るのが、「たんぱく質」なのだという。
詳しくは後述するが、たんぱく質は、筋肉はもちろん各種臓器の材料になる重要な栄養素だ。たんぱく質の摂取量が減ることは、筋肉が減るだけでなく、各臓器の機能低下にもつながりかねない。これが近年恐れられているシニア期の肺炎にもつながっているという。
「これまで、高齢者は基礎代謝量(じっとしていても消費するエネルギー量)が低下することなどから、老化とともに必要な栄養は少なくなるのでは、と考えられていました。しかし、最近になって、高齢者こそしっかり食べる、特に積極的にたんぱく質をとることが重要で、それが筋肉などを維持する助けになり健康長寿につながる、という事実が明らかになってきました」(荒木さん)
そこで本特集では、寝たきりにならないためのシニアのたんぱく質のとり方や生活の仕方を荒木さんに聞いていく。