アルコールが引き起こす「膵炎」は、痛いだけでは済まない
第2回 膵臓がドロドロに溶ける、カチカチに硬くなる…膵炎はこうして起こる
田中美香=医療ジャーナリスト
肝臓と並んで「沈黙の臓器」と呼ばれる膵臓。日ごろわれわれが膵臓について意識する機会は少ないが、病気になると強烈な存在感を見せ始めるのが特徴だ。今回のテーマは、膵臓の病気の中でも頻度が高く、大量飲酒から起こりやすい「膵炎」。膵臓がドロドロに溶けて激痛を伴ったり、症状が少ないのにカチカチに硬くなったりと、何とも不気味なその仕組みについて解説しよう。
膵炎の最大の原因は、大量のアルコール摂取
みぞおちが痛くなったとき、われわれは胃の病気を疑って、「ストレスかもしれない」「食べ過ぎ・飲みすぎだろう」「何か悪いものを食べたかな」などと考えるのが一般的だ。その痛みが本当に胃の異変なのだろうか?と疑問を抱く人はほとんどいないだろう。よほどの激痛ならすぐに受診するとしても、少々の痛みなら胃薬などでやり過ごしてしまう。しかし、その間に水面下で進行する病気がある――それが、膵臓の病気だ。
膵臓の病気とその診断・治療を知り尽くす消化器内科医、東京医科大学消化器内科学分野主任教授の糸井隆夫さんは、「胃をすべて切除しても生きていくことはできますが、膵臓の場合はそうはいきません。膵臓は生命を維持する上でなくてはならない臓器なのです」と語る(第1回参照)。
膵臓は胃の陰に隠れて目立たない存在。「膵臓に良い生活をしよう!」と思う機会はほとんどなく、それどころか、逆に酷使し続けているのが現状だ。
「膵臓は10~15cmの小さな臓器でありながら、消化酵素やホルモンを分泌する大切な存在です。しかし、近年の日本では、食生活が欧米化し、膵臓に負担を強いる生活を送る人が増えているため、膵臓の病気は増加傾向にあります」(糸井さん)
膵臓がくたびれて炎症を起こす膵炎には、膵臓がドロドロに溶けて激痛が出る「急性膵炎」と、膵臓がカチカチに硬くなって機能しなくなる「慢性膵炎」の2つがある。急性膵炎は年間6万3000人が発症、慢性膵炎は年間6万7000人が医療機関を受診しており、その数はいずれも年々増加している(*1)。
膵炎になりやすい人の特徴は図1の通り。中でも一番注意すべきはアルコールの大量摂取だ。急性膵炎で最も多い原因が飲酒であり、慢性膵炎でも約7割が長年の飲酒から起こるとされている(関連記事「お腹と背中が猛烈に痛い! その正体は急性膵炎かも」)。では、アルコールは、どのようにして膵臓をむしばむのだろうか。
「アルコールを過剰に摂取すると、それに対処しようとして、たくさんの膵液が分泌されます。つまり、アルコールは、膵臓を酷使する最大の原因なのです。大量のアルコールに加えて、脂っこいものも食べていれば、それを必死に消化しようとして膵臓の負担がさらに増し、炎症を起こすようになります」(糸井さん)