日本人の膵臓が危ない! 忍び寄る膵炎、膵がんの脅威
第1回 「沈黙の臓器」は肝臓だけではなかった
田中美香=医療ジャーナリスト
がんの中でも特にタチが悪いがんといえば「膵がん」、猛烈な痛みに襲われる病気といえば「急性膵炎」を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、膵臓をやられるのは嫌だ!という認識はあっても、胃や腸と何が違い、どんなところが怖いのかについては漠然としたイメージしか持たない人が大半ではないだろうか。本特集では、肝臓と並んで「沈黙の臓器」と呼ばれる膵臓の仕組みをひもときつつ、膵臓の病気の恐ろしさと、少しでも早く気づくためのポイントを解説する。
生存率の低い膵がん、激痛を伴う急性膵炎…膵臓の病気はなぜ怖い?
元プロ野球選手・監督の星野仙一氏、元横綱千代の富士の九重親方、アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏、ミュージシャンのかまやつひろし氏…まだまだ現役だと思っていた人が亡くなる原因として、「膵臓がん(膵がん)」の名を耳にすることがある。
日本人の2人に1人ががんになるという現代、何らかのがんにかかるのは致し方ないとしても、できれば避けて通りたいがんの筆頭が膵がんだ。膵がんは、日本で4番目に死亡数が多いがん。4番目という数字だけを見れば、「まだマシなほうではないか」と思う人もいるかもしれない。だが、それは膵がんの患者数が、他のメジャーながん(胃がん、大腸がん、乳がん、肺がん、前立腺がんなど)に比べて少ないだけ。膵がんの最大の怖さは、「治りにくい」ことにある。図1を見ての通り、膵がんの生存率は数あるがんの中でも抜きん出て低く、治療を受けても、診断から5年後に生存している患者はわずか10%しかいない。
膵臓の病気が怖いのはそれだけではない。「激痛を伴う急性膵炎や、膵がんに移行しやすい慢性膵炎も、見過ごせない存在です。がん化する可能性のある『膵のう胞』を、知らず知らずのうちに持っている人もたくさんいます(図2)」――そう語るのは、東京医科大学消化器内科学分野主任教授の糸井隆夫さんだ。
糸井さんは、膵臓・胆のうのエキスパートとして、数々のガイドライン作成にもかかわってきた消化器内科医。海外で膵臓の内視鏡手術を行う機会も多い。糸井さんによると、強烈な痛みを伴う急性膵炎は別として、膵がんや慢性膵炎などの重大な膵臓疾患は発見が難しく、気づいたときには進行していることが多いという。
では、なぜ膵臓の病気はそれほど厄介なのだろうか。第1の問題は、膵臓がある場所だ。「膵臓がある場所の性質上、膵臓に痛みが出ても、『胃の痛みだろう』と誤解されやすいのです」と糸井さんは話す。