認知症の予防効果が“より高い”運動はこれだ!
第2回 「逃げ切り」の鍵は運動! 歩く速度がガクンと落ちたら危ない
伊藤和弘=フリーランスライター
長寿化とともに患者が増え続けている認知症。最も多いアルツハイマー病は、20~30年といった長い期間をかけて進行する病気だ。40~50代といった若い世代から、認知症のリスクを下げる生活を始めれば、発症する前に逃げ切り、天寿をまっとうすることも夢ではない。そのために取り組むべきことは多々あるが、今回は「運動」による予防効果を取り上げる。近年の研究で歩行能力と認知機能には密接な関係があることが分かってきた。歩く速度がガクンと遅くなったら危ないという。
「認知症から逃げ切る」ためにするべきことは?

2025年には700万人に達すると予測されている認知症患者。認知症は、多くの人にとって「最もかかりたくない病気」の一つだろう。
認知症にはいくつかあるが、中でも最も多いのがアルツハイマー病だ。このアルツハイマー病は、近年の研究で、数十年にもわたる病気であることが分かってきたことは第1回で紹介した通りだ。主たる原因の一つであるアミロイドβは、認知症の発症からさかのぼること20~30年前から蓄積が始まっていることが分かってきた。
70~80代で認知症を発症するとしたら、早くも40~50代からたまり始めていることになる。認知症を発症する前の数十年間の過ごし方が重要で、それにより「認知症から逃げ切る」ことは不可能ではない。そして、アミロイドβがある程度たまっても、知的活動や生活習慣次第で発症を防げる可能性があることも、米国のナン・スタディという研究から明らかになっている。
また、認知症の手前の段階であるMCI(軽度認知障害)と診断されても、適切な対策を実行することで正常な認知機能に戻る人も少なくない。MCIになってしまっても、元に戻れる可能性があるのだ。
これらの事実は、「認知症にだけはなりたくない」と願う人にとって大きな希望だ。そして、40代、50代といった若い年代の人にとっても、生活習慣の改善に取り組もうというモチベーションにつながるのではないだろうか。
運動による効果は明確なエビデンスがある
では、どのような生活習慣を実践すれば、認知症のリスクを下げ、「認知症から逃げ切る」可能性を高めることができるのだろうか?
これまでの研究から、「認知症になりやすい生活習慣」と逆に「認知症になりにくい生活習慣」があることが明らかになっている。読者の方も、知的活動、運動、食事などによってリスクが変わってくるという話を聞いたことがあるだろう。さらに、喫煙、うつ、聴力低下、若い頃に受けていた教育、遺伝などさまざまな要因が関係してくることも分かっている。
この中には、若い頃の教育、遺伝など、これから対策を打つのが難しい要因もある一方で、糖尿病・高血圧などの生活習慣病、運動、知的活動などこれから改善できる要因が多くある。国立長寿医療研究センターもの忘れセンター長の櫻井孝さんは、「できる対策はどんどん取り組んでいただきたい」と前置きしつつ、まずは運動から取り組むことを勧める。その理由として櫻井さんは、運動には明確なエビデンスがあるからだと話す。
「認知症のリスクを下げる可能性が報告されている生活習慣はいくつかありますが、最も科学的根拠(エビデンス)がそろっているのが運動です(*1)。世界中でさまざまな研究が実践されています。研究によって効果にばらつきもありますが、効果が期待できる対策であることは間違いありません。ぜひ実践していただきたい」と櫻井さんは強く勧める。