「脂肪肝」解消の大きなカギを握るのは「筋肉」だった
第1回 急増する脂肪肝の脅威! 今や肝がんの原因の約3割は悪性脂肪肝
伊藤和弘=ライター
人間ドック受診者の3割以上が指摘される肝機能障害。その主たる原因である「脂肪肝」は、悪性のタイプでは肝臓に炎症が起こり、肝臓の細胞が破壊され、やがて肝硬変や肝がんへと進んでいく。近年、この脂肪肝の成り立ちには、肥満だけでなく、筋肉の減少や質の低下が深くかかわっていることがわかってきた。本特集では、脂肪肝に詳しい筑波大学附属病院消化器内科教授の正田純一さんに、3回にわたって脂肪肝の成り立ちや予防・改善の方法を聞いていく。
爆発的に増えている脂肪肝、その原因は肥満だけではない
肝臓に脂肪(中性脂肪)が蓄積して“フォアグラ” のような状態になる、脂肪肝。ただ脂肪がたまっているだけで実害がないならいいが、これを放置しておくと、一部の悪性のタイプが肝臓に炎症を起こし(後述する「NASH」)、肝細胞が破壊されて肝硬変、さらには肝がん(肝臓がん)につながることがある。今現在は症状がなくても、将来命に関わりかねない生活習慣病の1つが、脂肪肝なのだ。
特に、普段から食べすぎ・飲みすぎの傾向があり、長年の運動不足で体重も増え、お腹も出てきてしまった…といったタイプの人は、脂肪肝と聞くと他人事とは思えないのではないだろうか。
「脂肪肝は近年、爆発的に増えています。日本人間ドック学会の統計では、人間ドックを受診して肝機能異常が見つかる人の割合は30%を超えており、そのほとんどが脂肪肝と考えられています。この数字は、この30年で実に2.5倍から3倍近くに増えています」(*1)
そう話すのは、脂肪肝をはじめとした生活習慣病の治療や運動療法に詳しい、筑波大学附属病院消化器内科(肝臓生活習慣病外来担当)教授の正田純一さんだ。
脂肪肝急増の背景には、日本の肥満人口の増加がある。厚生労働省の国民健康・栄養調査(2017年)では、日本人の成人男性の約31%、成人女性では約22%が肥満(*2)に該当していた。男性の肥満は30~40代に多いが、女性の場合はホルモンのバランスが変化する閉経後、50代以降に太り出すのが特徴だ。
肝臓に脂肪が蓄積するのだから、「脂肪肝は太った人がなりやすい病気」というのは紛れもない事実。だが、中には、肥満ではないのに健康診断などで脂肪肝が見つかる人もいる。「なぜ私が脂肪肝に?」と疑問に思っている人も少なくないだろう。そうした人の「なぜ?」に対するヒントにもなる新事実が、近年、正田さんらの研究によって明らかになってきた。「脂肪肝のなりたちや治療において、筋肉の果たす役割が非常に大きいことが分かってきたのです」(正田さん)。
脂肪だけでなく筋肉も脂肪肝に深く関わっているというのは、どういうことなのだろうか? まずは、脂肪肝のなりたちから具体的に見ていこう。
*2 日本肥満学会による基準。身長と体重から算出するBMI(体格指数)が25以上になると肥満と判定される。BMI(kg/m2)=体重(kg)÷〔身長(m)の2乗〕
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