太っていない人の高血圧、背景には遺伝や加齢も
第3回 運動や減塩に取り組んでも「黄信号」のままなら治療を
梅方久仁子=ライター
太っていない人の異常値の悩みを取り上げる本特集。第1回、第2回は、太っていなくても筋肉に脂肪がたまり、インスリンの働きが悪くなる「脂肪筋」の怖さと対策を取り上げた。第3回は、太っていない人の高血圧への対処法をさらに掘り下げていこう。高血圧治療に詳しい横浜労災病院院長・梅村敏氏の話を基に、太っていなくても高血圧になる原因とその対策を紹介する。
肥満は高血圧のリスク因子の1つだが、実際には、太っていない人でも血圧が高い人はたくさんいる。肥満の人の高血圧対策と、太っていない人の高血圧対策では何が違うのだろうか。まずは梅村氏に、高血圧の最新事情から聞いていこう。
話題の「血圧サージ」が怖いのは、主に動脈硬化がある人
「高血圧は、短期的にはそれほど怖い状態ではありません。そもそも血圧は日常的に変動するもので、ちょっと緊張するだけで20mmHgや30mmHgはポンと上がります。重量挙げの選手がバーベルを持ち上げると100mmHgくらいは一気に上がりますよ。一方で、夜間睡眠時には10~20mmHg下がります」と梅村氏は言う。
「最近、寒いときなどに血圧が急に上昇する血圧サージが話題になっていますが、これも少し騒ぎすぎかもしれません。若くて動脈硬化のない人なら、一時的に上の血圧(*1)が200mmHgくらいまで上がっても、多くの場合何の問題もありません。問題は、血圧の高い状態が長年続いたり、糖尿病・脂質異常症があると動脈硬化につながるということ。そして、その状態で血圧サージが起こると、心筋梗塞や脳血管障害を引き起こし、突然死したり寝たきりになったりする恐れがあることです。動脈硬化の進んだ人では、寒い朝に布団から出て血圧が急上昇したときに、バッタリ倒れてしまうこともありますから」(梅村氏)。
では、どのくらい血圧が高ければ、将来的に心筋梗塞や脳梗塞を起こす危険があるのだろうか。
米国では高血圧の定義が「140/90」から「130/80」へ
これまで、日本を含めた世界の高血圧の診断基準は「収縮期140mmHg/拡張期90mmHg以上」とされてきた。ところが最近、これよりも低い血圧のリスクにも注目するべきだという考え方が強まっている。
例えば、2013年に報告されたメタ解析(*2)では、従来の定義では高血圧とは診断されない、一歩手前の130~139/85~89mmHgの人であっても、より低い120/80 mmHg未満の人と比べた場合、心血管疾患(脳卒中や心筋梗塞)で死亡するリスクが約2倍になる、という結果が紹介された(*3)。
米国の有名な疫学研究「フラミンガム心臓研究」でも、上の血圧が130~139mmHgの人だけでなく、120~129mmHgの人であっても、120mmHg未満の人に比べて、心血管疾患の発生率が高いことが報告されている(図1)。上の血圧が120mmHg台というのは、通常であれば問題ないとされる数値だ。「高血圧と診断されなければ大丈夫」では決してなく、「ちょっと高め」でも将来脳卒中や心筋梗塞で倒れるリスクは高いということがいえる。
*3 Curr Hypertens Rep. 2013;15:703-16.