「のど」と呼吸筋を鍛えて“肺炎”から身を守る3つのトレーニング
第2回 肺炎球菌ワクチンと口腔ケアも極めて重要
伊藤和弘=フリーランスライター
日本人の命を脅かしている「肺炎」。「飲み込み力」が衰えた高齢者は、誤嚥性肺炎を繰り返し、最後は死に至ってしまう――。この悪循環を防ぐために、何かできることはないのだろうか。第2回となる今回は、呼吸器のエキスパートである大谷義夫医師が提唱する、“のど”や呼吸筋を鍛えるトレーニング、そして肺炎球菌ワクチンと口腔ケアなど、実践的な対策を紹介していこう。

近年、リスクが増している「肺炎」。中でも特に問題になっているのが「誤嚥性肺炎」だ。誤嚥性肺炎とは飲食物や唾液などが気道に入ることで、その中に含まれていた細菌により発生した肺炎のこと。今や、高齢者の肺炎の7割以上が誤嚥性肺炎となっている。
歳を取ると嚥下反射(飲食物を食道に飲み込む動作)や咳反射(異物が気道に入ったときに咳をして出すこと)が衰えて、誤嚥性肺炎を発症しやすくなる。さらに、睡眠中など無意識のうちに唾液を気管に入れてしまう「隠れ誤嚥」により肺炎になるケースもとても多い。隠れ誤嚥は、本人が気付かないため防ぐのが難しい。
このため誤嚥性肺炎は繰り返しやすい。体力が低下すると同時に、嚥下反射や咳反射の能力が落ち、再び肺炎に――。このような「負のスパイラル」に陥りやすく、一度この悪循環に入るとそこから抜け出すのは難しくなってしまう。(詳しくは第1回を参照)
だからこそ、早くから手を打つことが大切になってくる。呼吸器疾患のエキスパートで、テレビなどでもおなじみの池袋大谷クリニック院長の大谷義夫さんは、「老化のサインを見逃さず、適切な対策を実践すれば健康寿命を10年延ばすことも可能です」と話す。
では、具体的にどうすれば「肺炎のリスク」を下げられるのか。今回は、大谷さんが勧める、“のど”や呼吸筋などを強くする3つのトレーニング、そして肺炎リスクを下げるために欠かせない肺炎球菌ワクチンの接種や、口腔ケアといった実践的な対策をお伝えしていこう。
まずは「ゴックンテスト」でのど年齢をチェック
具体的なトレーニングや対策に取り掛かる前に、まずは自分の「のどの老化度」を知っておこう。
そもそも、のどの老化のサインは40代から現れる。「誤嚥性肺炎は高齢者に多い病気ですが、誤嚥自体はそのもっと前、40代から始まっています」と大谷さん。第一線でバリバリ働いている現役世代にとっても、決して対岸の火事ではない。

誤嚥するようになる大きな理由は、のどの筋肉の衰えと唾液の分泌が減ることだ。そこで、のどの老化度をチェックするために大谷さんが考案したのが「ゴックンテスト」。クリニックを受診した350人以上の患者に協力してもらった結果、加齢に比例してのどの嚥下機能(飲み込む力)が落ちていくことが分かった。つまり「ゴックンテスト」をすれば、あなたの「のど年齢」がどのくらいなのか分かるわけだ。
やり方は極めて簡単。まず、水を一口飲んで口の中を湿らせる。続いて、30秒間で何回唾液を飲み込めるか数えるだけ。ちなみに、このように唾液だけを飲み込むことを「空嚥下」と呼ぶ。唾液を飲み込むときはのど仏が上下に動くので、指をのど仏の周辺に当てておくと数えやすい。
![]() | 飲み込み回数で「のど年齢」が分かる! (30秒の飲み込み回数) |
10回以上:のど年齢 20代 9回 :のど年齢 30代 8回 :のど年齢 40代 7回 :のど年齢 50代 6回 :のど年齢 60代 5回 :のど年齢 70代 4回以下:のど年齢 80代以上
50代なら7回飲み込めれば年相応。誤嚥性肺炎のリスクは5回以下で高くなる。
10~20代の若者は唾液の分泌も多く、のどの筋肉もよく動く。30秒の間に10回以上飲み込めるのが普通だ。「これが30代になると平均回数が9回に落ち、40代では8回、50代では7回、と徐々に減っていきます」(大谷さん)
つまり回数が少ないほど、のど年齢が老けているということ。50代なのに5回しか飲み込めないようなら要注意だ。大谷さんは「5回以下になると、誤嚥性肺炎のリスクが高くなります。実際に私が診た患者さんで肺炎を発症している方は5回以下の方がほとんどです。特に、1~3回だと危険な状態です」と指摘する。