肺炎こそが最後のハードル! 恐ろしい誤嚥性肺炎の「負のスパイラル」
第1回 肺炎の怖さを正しく理解――事前に対策に着手し、寿命を10年延ばす
伊藤和弘=フリーランスライター
近年、肺炎の脅威は高まる一方だ。特に大きな問題になっているのが誤嚥性肺炎。歳を重ねると飲み込み力(嚥下機能)が低下し誤嚥(ごえん)を起こし、そこから肺炎を発症してしまう。誤嚥性肺炎は繰り返しやすく、「負のスパイラル」に陥りやすい――。では何か打つ手はあるのだろうか。本特集では、私たちの命を脅かす肺炎リスクの実態から、その対策までを一挙に紹介する。

「医学の進歩で、がんは昔のような不治の病ではなくなりつつあります。その一方で、肺炎で亡くなる人はどんどん増えています。これから高齢化が進むことで、肺炎にかかる人がさらに増えることは間違いありません。そして怖いのは高齢者の肺炎は繰り返すことです。免疫力もどんどん落ちていき、最後は死に至ってしまうのです」――。
呼吸器疾患のエキスパートで、テレビなどでもおなじみの池袋大谷クリニック院長の大谷義夫さんはこう話す。大谷さんは『65歳からの誤嚥性肺炎のケアと予防』(法研)や、『長生きしたければのどを鍛えなさい』(SB新書)などの著書を数多く手がけ、肺炎についての警鐘を鳴らし続けてきた医師だ。
「隠れ誤嚥」の恐怖、自分で認識できないだけに防ぐのは難しい
近年、「肺炎」の存在感が増してきている。自分や知人の両親が肺炎になった、などという人は少なくないはずだ。中には、がんの治療中に「誤嚥性肺炎」を起こした、といったケースを耳にした人もいるだろう。
現代の日本は世界一の高齢化社会で、100歳を超える長寿も珍しくない。健康に気を使う人が増え、喫煙率も年々下がっている。そこに医学の進歩も加わった結果、昔のようにがんや心疾患で簡単に死ななくなった。ところが、その一方で、肺炎で命を落とす人が増えている。
がんや心疾患などの大病を克服した高齢者だけでなく、大病せずに長生きしてきた高齢者にとって今、肺炎こそが最後のハードルになっているのだ。
肺炎が私たち日本人の大きなリスクになっていることは、統計データからも明らか。厚生労働省の2017年(平成29年)「人口動態調査」のデータでは、肺炎の死亡数は約9万7000人で死因第5位、誤嚥性肺炎の死亡数は約3万6000人で第7位になっており、両者を足すと脳血管疾患(約11万人)を大きく上回り死因第3位だ。
とはいえ、肺炎そのものは昔からある病気で、決して新しいものではない。戦前はがんや心疾患よりも多かったこともあるとはいえ、医学が発達した現在、どうして肺炎が猛威を振るっているのか――。不思議に感じる人もいるだろう。
その謎を解くキーワードが、冒頭でも触れた「誤嚥性肺炎」だ。詳しくは後述するが、誤嚥性肺炎とは、食べ物、飲み物、唾液などが気管から肺に入り、そこに含まれていた病原菌によって起きる肺炎のこと(*1)。誤嚥が恐ろしいのは、本人が気付かないことがあること。いわゆる「隠れ誤嚥」だ。
「誤嚥性肺炎で重要なのは隠れ誤嚥です。隠れ誤嚥は自分で認識できないだけに防ぐのは難しい。だから、肺炎を繰り返してしまうのです」(大谷さん)
さらに、大谷さんは、肺炎で亡くなる人は実際には統計以上に多いと指摘する。「例えば、がん患者が肺炎を起こして亡くなった場合、死因はがんになります。死因2位になっている心疾患でも、心筋梗塞の発作だけで亡くなる方は減少し、気管支炎や肺炎を合併して心不全を起こす方が多いんです。つまり、多くの人は持病のみでは死なないのです」(大谷さん)
これが超高齢化社会になった日本を襲う肺炎リスクの実像だ。年齢を重ねるごとに肺炎のリスクは高まり、誤嚥による肺炎を繰り返す「負のスパイラル」に陥ってしまう――。この連鎖から逃れることはできるのだろうか。また、シニアになる前の、40~50代の働き盛り世代のころからリスクを下げるためにできることはないのだろうか。
この記事の概要
